爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第二十八話 のどしじふっぱー(2002年6月23日掲載)

【出雲弁】

「弟が、とこは、こないだの日曜、宮参りだった、げなの。」

「たいへん、だった、しこ、ですよ。」

「なんぞ、あったかや。」

「よこやさんが、ホテルの、結婚式場へ、行った、まんま、時間に、なっても、戻って、こられんかった、げでね・・・。」

「あの日は、じったじった、おもしのくやな、天気だった、だけん、泡の、でーもんなと、よばれ、ちょっちゃった、だわの。」

「えもっちぇの、嫁さんも、着物や、なんや、着たことが、ねだけん、汗だれこだれで、赤子は、泣き出すわ、乳が張って、おじくわ、たいへんだった、げなじね・・・。」

「そら、いたわしげな、ことだったのー。」

「なんがねまいさん、嫁さんは、くたぶれて、寝込んで、しまっちゃったげなが、しゃんことで、子どもが、おせに、できーだらかの。」

「ババ。えもっちぇの、ことで、そげん、のどしじ、ひっぱらでも、もちと、おらおらと、しゃべくー、だわやー。」


【共通語訳】

「弟のところは、こないだの日曜日に宮参りだったそうだね。」

「たいへんだったそうですよ。」

「何か、あったかい。」

「神主さんが、ホテルの結婚式場へ行ったまま、約束の時間になっても戻られなかったそうでね・・・。」

「あの日は、じっとりとした蒸し暑い天気だったから、ビールでもごちそうになっておられたかもしれないね。」

「分家のお嫁さんも着物なんか着たことがないから、汗まみれで赤ちゃんは泣き出すわ、乳が張ってうずくわ、たいへんだったそうですよ・・・。」

「それは、かわいそうなことだったねー。」

「何があなた、お嫁さんは疲れて寝込んでしまったそうですが、そんなことで、子どもが育てられるだろうかね。」

「お婆さん。分家のことで、そのようなけんまくで話さなくても、もう少し、おおらかにしゃべりなさいよ。」


(注釈)
 四十〜五十年前ごろにまでは和服を普段着としている方が多くいらっしゃいました。今では、成人式、卒業式、冠婚葬祭などの正装として着ることが多く、他人の手を借りずに着られる方が少なくなりました。

(参考)
 「のどしじ、ふっぱって、しゃべくる」は「のど筋が出るようなけんまくでしゃべる」ことを言います。出雲人は激しいけんまくでしゃべる人を、素晴らしい観察力とユーモアで、優しく包み込みます。このほかにも、出雲地方独特の言い回しや慣用句がたくさんありますが、いずれも、卓越した観察力と心優しい出雲人を感じることができます。

(奥野栄)

 

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