爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第二十九話 だいてごいた(2002年7月14日掲載)
【出雲弁】
爺「ババ。茶口に、となーで、まった、モナカ、だいて、ごいた。」
婆「よんべは、えらい、よー、ふーましたがね。」
爺「あげ、あげ。ざざぶー、だったがのー。」
婆「おかさんが、だいぶ、やいの、やいの、言った、みたいで、わけもんも、目、こしーこしー、たんなかへ、行った、みたいでしじね。」
爺「おらでも、行かな、いけんかと、もったら、がいな音、させて、出かけた、もんだけん、あんどして、寝たわ。」
婆「康夫も、ちた、しゃね、えて、たんなかの、世話、してごさな、えけませんがねー。」
爺「おらやちの、わけこら、たんなか、だいじに、した、もんだねのー。」
婆「オジジ。おまえさんも、おちが、やかましに、いわな、ちーとだい、ととろかれんが、しゃんしゃん、して、ごしなはいよ。」
爺「ババ。モナカは、まだかいの。」
婆「あい、け。はたいろが、わりなーと、じき、話、そらかいてだがー。」
【共通語訳】
爺「お婆さん。茶請けに隣でもらったモナカを出してくれ。」
婆「ゆうべは、大変よく降りましたね。」
爺「そうそう。土砂降りだったねー。」
婆「お母さんが、だいぶん、やいやい言ったみたいで、若い者も目をこすりながら田んぼへ行ったようですよ。」
爺「私でも(田んぼへ)行かなければと思っていたら、大きな音をさせて(若い者が)出かけたものだから、安心して寝たよ。」
婆「康夫も少しは性根を入れて、田んぼの世話をしてくれないといけないよねー。」
爺「私たちの若いころは、田んぼを大切にしたものだがねー。」
婆「お爺さん。おまえさんも、私がやかましく言わなければ、少しも言うことを聞かれませんが、しっかりしてくださいよ。」
爺「お婆さん。モナカはまだかい。」
婆「ああ、もう。都合が悪くなると、すぐ、話をそらしてしまう。」
(参考)
出雲弁では「舌を出した」の「し」音が「い」音に変化して、「舌を出いた」となります。同様に「隠しておく」は「隠いておく」、「押してみる」は「押いてみる」となります。共通語でも発音の便宜上、動詞や形容詞などの活用語末「き」、「ぎ」、「し」、「り」が「い」音となるイ音便として知られています。出雲弁では「し」音で表れることが多いのが特徴です。
「だいてごいた」は「出してごした」の二つの「し」音がイ音便化したものです。
(奥野栄)