爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)

第三話 えまんごのわけもん(6月10日掲載)

【出雲弁】

「そげいわ、こないだ、弟がとこの、わけもんが、よめごさん、ちぇて、あいさつに きちょったの。」

「ま、オジジ、聞いてやって、ごしなはい。」

「け、なんかいのー。ここんとこ、ふとあめ、ふとあめ、草が、大きん、なー、だけん、おらも、えそがし、けん、のー。」

「なんと、オジジ。えまんごのわけもんは、あいさつだい、よー、できんじね。弟さんがとこの、わけしが、内祝い持って、こらいた、だけん、結婚のお祝いや、おまえさんが、ごっつおさんねならいた、お礼を言わなえけんし、この春ちょうだいした、孫の入学祝いのお礼やら、おまえさんが、じげの花見の帰りだけん、てて、寄って、ごっつおさんね、ならっしゃった、お礼を言って、顔を上げーちーと、目しろくろ さしぇて、立っとらっしゃったじね。」


【共通語】

「そういえば、この間、弟のところの若い者がお嫁さんを連れてあいさつに来ていたね。」

「まあ、お爺さん、聞いてください。」

「もう、何の話だろうかね。このところ一雨ごとに草が大きくなるから、私も忙しいからね。」

「なんと、お爺さん。今ごろの若い者はあいさつも十分にできないよ。弟さんのところの若い人が結婚の内祝いを持ってこられたものだから、結婚のお祝いやおまえさんが披露宴でごちそうになったお礼を言わなければならないし、この春に頂いた孫の入学祝いのお礼や、おまえさんが地区の花見の帰りだからと、寄ってごちそうになったお礼を述べて顔を上げると、目を白黒させて立っていたよ。」


(注釈)
 爺の弟のところに、お嫁さんが来られたようです。ジューンブライドでしょうか。爺もこの時期は、一雨ごとに草が大きくなり、畑の草取りが大変のようです。

(参考)
 ”婆のあいさつ”
「このたびは、お嫁さんを、もらわいた、げねしてね、おめでとうございましてね。おちんしが、がいね、よばれましたげで、あーがとございました。また、この春ねは、おかどが、おおございましね、おちん孫ねまで、お祝いをちょうだいいたしまして、だんだん、だんだん。あとごろは、おちん、オジジが、花見の帰りに、寄って、ごっつおさんね、なーましたげで、あーがとございました。」
*こんなあいさつをする人が少なくなりました。

 

(奥野栄)

 

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