爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第三十一話 すいくぁ(2002年8月11日掲載)

【出雲弁】

「今日は、えらい、のくの。スイクヮでも、くわこい。」

「七夕の残りが、まーたで、あーましけん、はやしましょかね。」

「そげいわ、こないだのは、たなが、おちちょったが、せわねかや。」

「こんだ、え、おとなえが、しちょーましじね。」

「ひえちょーかいの。」

「井戸の中で、ひやかいちょー、ましたけん、え、あんばいでしじね。」

「そら、ごっつおだの。」

・・・・・

「あら。ババ。入れ歯が見えんが、知らんかや。」

「ちーはんには、しちょらいましたがね。」

「そげ、だったかいの。」

「あいけ、きちゃんなまし。きゃん、とこに、あーましがね。はずいたら、ちゃんと、しまっちょいて、ごしなはいませよ。」

「そげいわ、ちーはん、くって、流しに、おいちょいたわ。」

「オジジ。せわ、あーませんかいね。脳みその、たなが、おちちょー、しませんかいね。」


【共通語訳】

「今日は、ずいぶん暑いね。スイカでも食べようよ。」

「七夕の残りが一個丸ごとありますから、切りましょうか。」

「そういえば、この間の(スイカ)は果肉が崩れていたけど、大丈夫かい。」

「今度はいい音がしていますよ。」

「冷えているかい。」

「井戸の中で冷やしていましたので、良いぐあいですよ。」

「それは、ごちそうだね。」

・・・・・

「あれ。お婆さん。入れ歯が見えないけど、知らないかい。」

「昼飯にはしておられましたよ。」

「そうだったかね。」

「ああ、もう、汚らしい。こんなところに有りますよ。外したらきちんと片付けてくださいよ。」

「そういえば、昼飯を食べてから台所に置いたよ。」

「お爺さん。だいじょうぶですか。脳みそが崩れていませんか。」


(参考)
 出雲弁には「スイクヮ」など、「くゎ」音が残っています。漢語を読むのに用いられた合拗音の一つで、火・灰・花・果・瓜など、特定の漢字を読むときに用いられていました。今でも出雲・富山・熊本などに残っています。富山では「南瓜(かぼちゃ)」を「なんくゎん」というそうです。

(奥野栄)

 

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