爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第三十一話 すいくぁ(2002年8月11日掲載)
【出雲弁】
爺「今日は、えらい、のくの。スイクヮでも、くわこい。」
婆「七夕の残りが、まーたで、あーましけん、はやしましょかね。」
爺「そげいわ、こないだのは、たなが、おちちょったが、せわねかや。」
婆「こんだ、え、おとなえが、しちょーましじね。」
爺「ひえちょーかいの。」
婆「井戸の中で、ひやかいちょー、ましたけん、え、あんばいでしじね。」
爺「そら、ごっつおだの。」
・・・・・
爺「あら。ババ。入れ歯が見えんが、知らんかや。」
婆「ちーはんには、しちょらいましたがね。」
爺「そげ、だったかいの。」
婆「あいけ、きちゃんなまし。きゃん、とこに、あーましがね。はずいたら、ちゃんと、しまっちょいて、ごしなはいませよ。」
爺「そげいわ、ちーはん、くって、流しに、おいちょいたわ。」
婆「オジジ。せわ、あーませんかいね。脳みその、たなが、おちちょー、しませんかいね。」
【共通語訳】
爺「今日は、ずいぶん暑いね。スイカでも食べようよ。」
婆「七夕の残りが一個丸ごとありますから、切りましょうか。」
爺「そういえば、この間の(スイカ)は果肉が崩れていたけど、大丈夫かい。」
婆「今度はいい音がしていますよ。」
爺「冷えているかい。」
婆「井戸の中で冷やしていましたので、良いぐあいですよ。」
爺「それは、ごちそうだね。」
・・・・・
爺「あれ。お婆さん。入れ歯が見えないけど、知らないかい。」
婆「昼飯にはしておられましたよ。」
爺「そうだったかね。」
婆「ああ、もう、汚らしい。こんなところに有りますよ。外したらきちんと片付けてくださいよ。」
爺「そういえば、昼飯を食べてから台所に置いたよ。」
婆「お爺さん。だいじょうぶですか。脳みそが崩れていませんか。」
(参考)
出雲弁には「スイクヮ」など、「くゎ」音が残っています。漢語を読むのに用いられた合拗音の一つで、火・灰・花・果・瓜など、特定の漢字を読むときに用いられていました。今でも出雲・富山・熊本などに残っています。富山では「南瓜(かぼちゃ)」を「なんくゎん」というそうです。
(奥野栄)