爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第三十二話 おんじょ(2002年8月25日掲載)

【出雲弁】

「おかさんが、えらい、かなきり声、だいちょったが、なんぞごと、あっただらかの。」

「夏休みの宿題が、できちょらん、てて、がいね、えらくっちょらいましたじね。」

「も、そげな、じぶんかいの。」

「課題研究だい、なんだい、ち−やな、もんが、できちょらんてて、いっちょーましたわ。」

「ほんなら、おらが、おんじょ捕りなと、教えて、やらかの。」

「やくてもね。止めちょきなはいませ。」

「なんでや。昔からの遊びだけん、孫らちに、伝えちょかな、えけんがや。」

「ちゃんと、理屈に、あったやな、こと、さんと、研究に、なーしませんがね。」

「オンジョは、決まった、通り道が、あっての。そこで、まっちょーと、飛んでくーわや。」

「ほーん。そげでしかね。」

「そーでの。メンジョに、糸、付けて、まわかいちょーと、オンジョがの、さばーついて、くーじ。」

「オジジ。おまえさんにしては、えらい、しゃんとしたこと、いわいましね。」


【共通語訳】

「お母さんが、きいきい声をしていたが、何かあっただろうか。」

「夏休みの宿題ができていないといって、たいへん、怒っていましたよ。」

「もう、そんな時期かね。」

「課題研究とか、何とかいうものができていないと言っていました。」

「それなら、私がヤンマの雄の捕り方を教えてやろうかね。」

「よけいなことを。止めておきなさいよ。」

「どうしてかい。昔からの遊びだから、孫たちに伝えておかなくてはいけないよ。」

「ちゃんと、理屈にあったようなことしないと研究になりませんよ。」

「ヤンマの雄は決まった通り道があってね。そこで、待っていると飛んでくるんだよ。」

「ふうん。そうですか。」

「それでね。ヤンマの雌に糸を付けて(ぐるぐる)回しているとヤンマの雄が寄りついてくるんだよ。」

「お爺さん。おまえさんにしては、ずいぶんしっかりしたことを言われますね。」


(注釈)
 松江には「オンジョつりの歌」があったそうです。
「こーいし、こい、こな、オンジョ、こい。アブラや、ミタオに、負けて、逃げる、オンジョ。恥だ、ないかや。」

(奥野栄)

 

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