爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第三十三話 つけごめ(2002年9月8日掲載)
【出雲弁】
婆「かんどなーから、タンバグリ、まーましたけん、くりめしなと、しましょかね。」
爺「さ、はつもん、だねか。ごっつお、だの。」
婆「つけごめに、すーやなもんが、なんだい、あーません、だった、だけん、はんだいに、あった、”山川”を、つけて、あげましたわ。」
爺「さ、かんどなーで、まってきた、やちだがや。」
婆「あいけ。そーを、はやこと、いーなはいませ。だけん、なんだい、えなげな顔、しちょらいましたわ。」
爺「けさがた、茶、よばれてのー。『なんだい、手、つけられん、かったけん』てて、包んで、ごさいた、”山川”だがや。」
婆「よそさんで、まったもな、ちゃんと、いっちょいて、まわな、えけましぇんがね。」
爺「『茶菓子、まったけんのー』てて、言ったねかーねー。ババ。花に、水、やーが、えそがしかったはで、聞いちょってだ、あーせん、もんだ。」
婆「なに、言っちょらっしゃら。しぇけん、すーのは、おちですけん、しゃんと、言っちょいて、ごしなはいよ。」
【共通語訳】
婆「上隣からタンバグリをもらいましたので、くりご飯でもしましょうかね。」
爺「それは、初物じゃないかい。ごちそうだね。」
婆「つけごめにするようなものが何にもありませんでしたので、飯台(はんだい)に置いてあった、”山川”をあげましたよ。」
爺「それは、上隣でもらってきたものだよ。」
婆「ああもう。それを、早く言ってくださいよ。だから、なんだか変な顔をしておられましたよ。」
爺「けさ、お茶をごちそうになってねー。『何にも手をつけられなかったから』と言って包んでくださった”山川”だよ。」
婆「よそで頂いたものは、ちゃんと言っておいてもらわないといけませんよ。」
爺「『茶菓子を頂いたよ』と言ったのに。お婆さん。花に水をやるのが忙しかったようで聞いていなかったんだよ。」
婆「なに、言ってるの。世間づきあいをするのは私ですから、しゃんと言っておいてくださいよ。」
(注釈)
互いに仲良く暮らしていく知恵でしょうか。出雲地方には、日常的に物をあげたりもらったりする習慣があります。
(参考)
「つけごめ」は、物をもらったとき、返礼として、その容器などに入れて返すことです。共通語では「お移り」というそうです。
(奥野栄)