爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第三十六話 あわせ柿
【出雲弁】
爺「ババ。か、なんかい。」
婆「何かいねー。そげん、おっきゃん、声、ださでも、聞こえちょーましがね。」
爺「ふろん中で、柿が、およいじょーがや。」
婆「あらら。まんだ、風呂に、はっちょー、せだった、かね。」
爺「テレビ、みちょったら、おそなっての。」
婆「今夜は、渋抜き、しましけん、はやこと、はって、ごしなはい、てて、いっちょき、ましたね、かーね。」
爺「ほんな、ぎょうずいで、しまーわー。」
婆「柿に、傷、ちけーだ、あーません、じね。」
爺「分かっちょーがー。風呂から、あがーときゃ、ふた、しちょくけんの。」
婆「去年は、風呂ぶたが、あいちょって、渋が、抜け、ちょー、しません、でした、がねー。」
爺「あげ、あげ。なま、渋やな、やち、ばっか、食べー、だけん、腹具合が、わりなったがのー。」
【共通語訳】
爺「お婆さん。これは、なんだい。」
婆「なんなの。そんなに、大きい声をださなくても、聞こえていますよ。」
爺「風呂の中で柿が泳いでいるじゃないか。」
婆「あれ。まだ風呂に入っていなかったの。」
爺「テレビを見ていたら遅くなってね。」
婆「今夜は渋抜きをしますので、早くお風呂に入ってくださいと、言っておきましたのに。」
爺「それじゃ、ぎょうずいでしまうよー。」
婆「柿に傷を付けるんじゃないですよ。」
爺「分かっているよー。風呂からあがるときには、ふたをしておくからね。」
婆「去年は風呂ぶたが開いていて渋が抜けていませんでしたよねー。」
爺「そう、そう。少し渋いようなものばかり食べるから、腹具合が悪くなったよなー。」
(注釈)
たわわに実った柿が秋空に映えています。一昔前は、風呂で渋抜きをしていましたが、最近はドライアイスなどで渋抜きするかたが増えました。
(参考)
「あわせがき」・「あわし柿」・「あおしがき」・「さわしがき」・「さらし」など、全国各地でいろいろな言い方があります。
「なま、渋やな」の「なま」は「わずか、いささか、ちょっと、なんとなく、どことなく」の意で用いられます。「生(なま)」が語源ではないでしょうか。
(奥野栄)