爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第三十九話 こらまたなんだら
【出雲弁】
婆「サザンカが、見事でし、じね。」
爺「木枯らしが、吹くやんなーと、咲くがのー。」
婆「花の、すくね、ときに、咲く、え、花、ですがね。」
爺「風が吹いても、雪が降っても、じっと、たえちょー、がのー。」
婆「おっその、ババに、もって、いきて、あげましょかね。」
爺「こないだも、あげ、ちゃった、げなの。」
婆「かざきで、ねちょらい、てて、聞きました、だけんね。見舞いに、サザンカ持って、行き、ましたわね。」
爺「部屋に、かざっちょったら、花が、ポロッと、ぼろけたげなじ。」
婆「こらまたなんだら。カンツバキと、間違えました、だらか。」
爺「おまえも、ちょちょくさ、だけんのー。」
婆「しまわかいた、こと、しましたね。」
【共通語】
婆「サザンカが見事ですよ。」
爺「木枯らしが吹くようになると咲くよなー。」
婆「花の少ないときに咲く良い花ですよね。」
爺「風が吹いても雪が降っても、じっと耐えているよなー。」
婆「後ろのおばあさんに、もっていってあげましょかね。」
爺「先日も、あげたそうだね。」
婆「風邪気味で寝ておられると聞きましたからね。お見舞いにサザンカをもっていきましたよ。」
爺「部屋に飾っていたら、花がポロリと落ちたそうだよ。」
婆「あら、まあ。カンツバキと間違えただろうか。」
爺「おまえもそそっかしいからねー。」
婆「失敗しましたね。」
(注釈)
花びらが一枚ずつ散っていくのがサザンカで、ポロリと一気に落ちるのがツバキです。武家の人たちはツバキを縁起が悪いと嫌ったそうです。慌て者の婆は間違えてもっていったようですね。
(参考)
「こらまたなんだら」は直訳すると「これは また なんだろうか」ですが、共通語では「あら、まあ」とでも言うのでしょうか。出雲らしい言い回しで、ユーモアたっぷりの出雲弁です。このほかにも「こな、まいさん(まあ、あなた)」、「はし、つけてごしなはい(食べてください)」など多数あります。
「ちょちょくさ」は”慌て者、そそっかしい人、軽率な人”という意味ですが、軽べつするような感じではなく、親しみを込めた言葉です。
(奥野栄)