爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)

第四話 どし(6月24日掲載)

【出雲弁】

「オジジ。今日は、近所の、どしと、アジサイ寺ね、えかっしゃーが、さんだんは、できちょーかいね。」

「おんおん、よんべから、さんだん、しちょーけん、しぇわねわや。」

「おまえさんにしては、えらい、手回しが、えね。」

「そら、そげだわや。寺みゃーの後は、ひーめし、食いながら、一杯やらこい、ちーことね、なっちょー、だけんの。」

「け、ほんね。あんま、のまっしゃーなよ。」

「おんおん、わかっちょーが。」

「どんよーした、えなげな空だが、傘もっちょらっしゃー、かや。」

「あげあげ。も、ちょんぼで、わっしぇー、とこ、だったがや。」

「”べんと、わっしぇても、傘、わっしぇーな”てて、よー、いった、もんだわ。」

「そげいわ、ちたて、ふーもんが、してきたわ。」


【共通語】

「お爺さん。今日は近所の仲間とアジサイ寺に行かれるけど、準備はできていますかね。」

「はいはい、夕べから準備しているから大丈夫だよ。」

「おまえさんにしては、ずいぶん手回しが良いね。」

「それは、そうだよ。寺参りの後は、昼食を食べながらお酒を飲もうということになっているからね。」

「もう、本当に。あんまり飲まないでよ。」

「はいはい分かっているよ。」

「どんよりとした怪しい空だけど、傘を持っているの。」

「そうだったね。もう少しで忘れるところだったよ。」

「”弁当忘れても傘を忘れるな”と、よくいったものだよね。」

「そういえば、少し雨が降ってきたよ。」


(注釈)
 アジサイ寺は、松江藩主松平家の菩提寺で、月照寺の別名です。梅雨には数万本のアジサイが咲くそうです。

(参考)
 「どし」は友人とか仲間の意味があります。「同士」が略されて「どし」になったという説や「どち」が語源だという説があります。

 

(奥野栄)

 

表紙ページ