爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第四十一話 ござなめ(1月12日掲載)
【出雲弁】
爺「ババ。正月も、あっちー、間に、すんだのー。」
婆「よーね、くたべーました、じね。」
爺「えもっちぇの、こと、かや。」
婆「年始に、こらいたは、え、だども、じんど、しまい、まで、おらい、ました、がねー。」
爺「あすこも、孫が、できてから、嫁さんが、えちなんどき、家に、おってだ、だけん、ばばさんと、なんだいかんだい、あーげな、わや。」
婆「言った、こた、言い。言った、こた、言い。話しが、ひとつだい、先行き、しません、でした、じね。」
爺「酒飲みは、のー。しゃん、もん、だわやー。」
婆「おとで、だけん、よー、にちょらい、ますわ。酒、飲んだら、あやくちゃが、あーしません、だけんね。」
爺「おらは、しゃんと、しちょったらがや。」
婆「さー、どげでした、だいね。おまえさんも、よそさんで、ござなめ、や、なんか、しなはーな、よ。」
【共通語訳】
爺「お婆さん。正月もあっという間に過ぎたよなー。」
婆「本当に疲れましたよ。」
爺「分家のことかい。」
婆「年始のあいさつに来たのは良いけれども、一番最後までおられましたよねー。」
爺「あそこも孫ができてから、お嫁さんが一日中家にいるから、お婆さんといろいろあるそうだよ。」
婆「言ったことは言う。言ったことは言う。話しが一つも前へ進みませんでしたよ。」
爺「酒飲みはねー。そんなものだよ。」
婆「兄弟だから、よく似ていますよ。酒を飲むと正体がないからね。」
爺「おれは、しっかりしていただろうが。」
婆「さあ、どうでしたでしょうかね。おまえさんも、他人の家で最後まで酒を飲むようなことは、しないでくだいよ。」
(注釈)
あけまして、おめでとうございます。本年もよろしくお願いしいたします。
世相が変わったのでしょうか、最近は”ござなめ”する正月客が少なくなりましたが、同じことをぐだぐだと何度も繰り返す酒癖は今でもよくみかけます。
(参考)
「ござなめ」は「ござ(イグサの茎で織った敷物)」を「なめる」ということで、酒宴の席で最後まで飲んでいることです。青森県三戸郡では「ござまくる」、「ござぱたき」長野県筑摩郡では「ござばっつけ」と言うそうです。
(奥野栄)