爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第四十二話 まくれー(1月26日掲載)
【出雲弁】
爺「拓也が、まくれた、げなが、あいまち、させだった、かいの。」
婆「しりもち、ついた、しこ、だども、どげだい、あーせんだった、みたいですよ。」
爺「そら、よかったの。」
婆「道が、がいに、しみちょって、け、すべくった、しこ、ですわ。」
爺「こげん、しみた、こた、近年、なかったねの。」
婆「オジジ。おまえさんも、きちけて、ごしなはいよ。わーわが、すべくって、まくれー、ちーと、骨が、折れます、けんね。」
爺「おらやち、よま、にょば、らちの、ほうが、骨が、すかすかに、なっちょって、あぶね、げなじ。」
婆「こないだ、健診が、あーましてね、骨は、大丈夫だ、てて、いわいました、じね。」
爺「毎日、ぎーにー、のんじょってだ、だけん、骨は、丈夫だわの。」
婆「おまえさんも、晩酌の代りに、ぎーに、のんなはい、ませ。」
爺「ババ。今夜は、えらい、さむけん、もう一本、つけても、え、だらかの。」
婆「け、ほんね。酒、てて、そげん、え、もん、ですかいね。」
【共通語訳】
爺「拓也が転んだそうだが、けがはしなかったかい。」
婆「しりもちをついたそうだけれども、何ともなかったみたいだですよ。」
爺「それは、良かったね。」
婆「道がすごく凍っていて、つい、滑ったそうですよ。」
爺「こんなに凍ったことは最近なかったのにね。」
婆「お爺さん。おまえさんも気を付けてくださいよ。私たちが滑って転ぶと骨が折れますからね。」
爺「私たちよりも女たちのほうが骨がすかすかになっていて危ないそうだよ。」
婆「こないだ健診がありましてね、骨は大丈夫だといわれましたよ。」
爺「毎日、牛乳を飲んでいるから、骨は丈夫だよな。」
婆「おまえさんも晩酌の代りに牛乳を飲みなさいよ。」
爺「お婆さん。今夜はずいぶん寒いから、酒をもう一本つけてもいいだろうか。」
婆「もう、本当に。酒って、そんなに良いものですか。」
(注釈)
転倒・骨折は寝たきりの原因の一つだそうです。牛乳などカルシウムを多く含む食品を摂って骨粗しょう症を予防しましょう。ウオーキングなどで骨に刺激を与えるのも効果的だと言われています。
(参考)
「まくれる」を”転ぶ”という意味で使用しているのは、福島・福井・長野・岐阜・京都・和歌山・三重・鳥取・広島・徳島・香川などの一部地域だそうです。裾がまくれて転ぶところから、「まくれる」が”転ぶ”と言う意味に転化したものです。
三重県伊賀では「もくれる」と言うそうですので、伊賀の忍者衆は「もくれる」と言っていたかもしれませんね。
(奥野栄)