爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第四十三話 はなしんがみ(2月9日掲載)
【出雲弁】
爺「梅が、えー、におい、させちょった、けん、取ってきたじ。」
婆「だんだん、だんだん。えー、枝ぶり、ですね。」
爺「花が、えっぱい、付いたやち、取って来た、けん、の。」
婆「風邪、ふいて、ねちょー、ます、だけん、ちーとだい、においません、わ。」
爺「まんだ、はなしーが、でー、かや。」
婆「そこ、見て、ごしなはい、ませ。はなしんがみが、なんぼ、あった、てて、とたもんだ、あーません、わ。」
爺「ババ。ちゃんと、くずかごへ、え、ちょく、だわや。きちゃんげで、えけん、がや。」
婆「おまえさん。え、ちょいて、ごしなはい、ませ。」
爺「わの、こた、わで、すー、だわや。」
婆「オジジ。おちゃ、病人です、けんね。三十八度も、あーます、けんね。」
爺「おんおん、いって、ねちょってもー、よー、しゃべくって、だのー。」
婆「鼻は、ふさがっちょー、ます、だども、口は、あいちょー、ます、だけんね。」
爺「ババ。そげん、はなんしたが、たつや、なら、もー、じき、なおー、かもっせん、のー。」
【共通語訳】
爺「梅がいいにおいをさせていたので取ってきたよ。」
婆「ありがとう、ありがとう。いい枝ぶりですね。」
爺「花がたくさん付いたのを取って来たからね。」
婆「風邪を引いて寝ていますので、少しも、においませんよ。」
爺「まだ、鼻水が出るかい。」
婆「見てくださいよ。鼻紙がいくらあっても足りませんよ。」
爺「お婆さん。ちゃんと、くずかごへ入れておけよ。汚らしくていけないよ。」
婆「おまえさん。入れておいてくださいよ。」
爺「自分のことは自分でしなさいよ。」
婆「お爺さん。私は病人ですからね。三十八度もありますからね。」
爺「うんうんいって寝ていても、よくしゃべるねー。」
婆「鼻はふさがっていますけれども、口は開いていますからね。」
爺「お婆さん。そんなに、口が立つようなら、もうすぐ治るかもしれないね。」
(注釈)
五十年前の「はなしんがみ(鼻紙)」は新聞紙を「ももしって(もみほぐして)」使っていました。印刷用インクが粗悪だったのでしょうか、頻回に鼻をかむと鼻の周りが黒くなりました。
(参考)
「鼻をすむ」は「鼻をかむ」という意味です。鳥取県西伯郡〜島根県邇摩郡で使われている言葉のようです。
(奥野栄)