爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第四十四話 めご(2月23日掲載)

【出雲弁】

「えー、においが、しちょー、のー。」

「カブの、みそしー、ですけん、しんから、ぬくもー、ます、じね。」

「ババ。道路わきに、フキノトーが、めご、だいちょった、わ。」

「も、はい、そぎゃん、季節に、なーました、かいね。」

「かわいげなった、じ」

「見ちょー、ほどでも、春らして、えー、ですがねー。」

「あげあげ。みそしーね、えー、と、何とも、いわえん、え、香りが、すー、がのー。」

「ほんな、ちょっこし、採って来て、ごしなはい、ませ。」

「しれもんが、ふっちょー、がや。」

「そこ、雨がっぱ、あーます、がね。」

「あいけ。えらんこと、いわな、よかった、のー。」

「しのごの、いわんこに、はやこと、いきなはい、ませ。」

「おんおん。分かった、がや。」


【共通語訳】

「いいにおいがしているねー。」

「カブのみそ汁ですから、体の中から温まりますよ。」

「お婆さん。道路のわきにフキノトウが芽を出していたよ。」

「もう、そんな季節になりましたかね。」

「かわいかったよ。」

「見ているほどでも、春らしくていいですよねー。」

「そうそう。みそ汁に入れると、何ともいえない、いいかおりがするよなー。」

「それじゃ、少し採って来てくださいよ。」

「白いもの(雪)が降っているよなー。」

「そこに雨がっぱがありますよ。」

「ああもう。余計なことを言わなければよかったなー。」

「つべこべ言わずに、早く行ってくださいよ。」

「はいはい。分かったよ。」


(注釈)
 いち早く春を告げるフキノトウは雌雄異株です。雄花は花後に枯れてしまいますが、雌花は茎が高く伸びて綿毛の種が風に飛ばされていきます。

(参考)
 言葉は、その時代の文化の中心地(京都・東京など)から周辺地域に向けて、波紋のように次々と広がっていき、文化の中心地から遠いほど古い言葉が残っているという考え方があります。このような考え方を『方言周圏論』といいます。ただし、全ての方言分布が説明できるわけではありません。
 「めご」は「芽」の意味で、島根県、徳島県、和歌山県で使われているそうですが、『方言周圏論』が当てはまるかどうかは不明です。

(奥野栄)

 

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