爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第四十五話 サンキー(3月9日掲載)

【出雲弁】

「ババ。つくしが、えっぱい、あったけん、採って、きたじ。」

「こらまたなんだら、よーけ、あーましたね。」

「今夜は、つくしで、いっぱい、やらかと、もっちょー、けん、煮付けて、ごいてだねか。」

「はいはい。わかーました、けんね。だども、わで、”はかま”、取って、ごしなはいよ。」

「こらほどの、もん、ふとーでは、なーせん、がや。てご、して、ごすだわやー。」

「おちゃ、まだ、洗濯、さな、えけません、けん、ね。」

「こげん、よけ、採って、こらな、よかったのー。ババにも、くゎせらか、ともって、えっぱいごと、採った、ねのー。」

「ほんな、ちょっこし、てご、しましょかね。」

「だんだん、サンキー。」

「オジジ。サンキーてて、何のことかね。」

「おまえ、しらんかや。英語で”だんだん”ちー、こと、だわや。」

「オジジ。さ、なまっちょーます、じね。”サンキー”ですわね。」

「ババ。おまえこそ、なまっちょー、がや。」


【共通語訳】

「お婆さん。つくしがたくさん生えていたので採ってきたよ。」

「これはこれは、たくさんありましたね。」

「今夜はつくしでいっぱい飲もうかと思っているので煮付けてくれないか。」

「はいはい。わかりましたよ。だけど、自分で”はかま”を取ってくださいよ。」

「これほどたくさんの物を一人ではできないよ。手伝ってくれよー。」

「私は、まだ洗濯をしなければいけませんよ。」

「こんなにたくさん採ってこなければよかったなー。お婆さんにも食べさせようと思って、たくさん採ってきたのになー。」

「それじゃ、少し手伝いましょうかね。」

「ありがとう、サンキー。」

「お爺さん。サンキーって、何のこと。」

「おまえ、知らないかい。英語で”ありがとう”ということだよ。」

「お爺さん。それは訛っていますよ。”サンキー”ですよ。」

「お婆さん。おまえこそ訛っているよ。」


(注釈)
 3月9日は「サン(3)キュウ(9)」で「ありがとうの日」だそうです。
 かわいらしく春の訪れを告げるツクシはスギナと同じ地下茎からでています。まずツクシがのびて、後からスギナがでてきます。

(解説)
 出雲弁では「サンキュー」を「サンキー」と発音します。五十音表の「きゃ」「きゅ」「きょ」のような音を拗音(ようおん)と言いますが、東北弁や出雲弁では「きゅ」音などの「ゅ」を発音せずに「きー」となります。「きゅうり(キュウリ)」は「きーり」、「しゅうがくりょこう(修学旅行)」は「しーがくりょこ」、「ちゅうがっこう(中学校)」は「ちーがっこ」、「にゅうがくしき(入学式)」は「にーがくしき」、「りゅきゅういも(琉球芋)」は「りーきいも」、「じゅうえんだま(十円玉)」は「じーえんだま」となります。

(奥野栄)

 

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