爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第四十七話 にしんつま(2003年4月13日掲載)
【出雲弁】
婆「オジジ。今日は、天気が、えけん、タケンコ掘りに、えきましょや。」
爺「おんおん、そげだの。ふでこが、とこも、送って、やーかの。」
婆「あげですね。首、ながんして、まっちょー、かもっせませんね。」
爺「ネコグーマと、クワ、持って、くーけん、ババ、オイコと、カマ、持って、きて、ごいた。」
婆「はいはい、わかーました、けんね。」
爺「ババ。おらの、長靴が、みえんが、どげした、だらかの。」
婆「きんにょ、畑、行くとき、はいちょらいました、がね。」
爺「あげだったのー。畑の、草が、ぼーぼーでの。草取り、しちょったが。」
婆「そーで、どげ、さいましたかね。」
爺「にしんつまで、エンド豆の、つる、はわせー、たけんば、用意、しちょったわや。」
婆「ばんげに、老人会の、会長さんが、こらいましたがね。」
爺「オモテに、上がって、まったがのー。」
婆「オジジ。納戸から、あがーしませだった、かね。」
爺「あげだわ。納戸にあーわ。年、とーと、ものわっせ、して、えけんわー。」
【共通語訳】
婆「お爺さん。今日は天気がいいから、タケノコを掘りに行きましょうよ。」
爺「はいはい、そうだね。秀子のところへも送ってやろうかね。」
婆「そうですね。首を長くして待っているかもしれませんね。」
爺「ネコグルマとクワを持ってくるから、お婆さん、背負いかごとカマを持ってきてくれ。」
婆「はいはい、分かりましたよ。」
爺「お婆さん。私の長靴がみえないけど、どうしたのだろうかね。」
婆「昨日、畑へ行くときに履いておられましたよ。」
爺「そうだったね。畑の草がぼうぼうでね。草取りしていたよ。」
婆「それで、どうしました。」
爺「家の西の端でエンドウ豆のつるをはわせる竹の棒を用意していたよ。」
婆「夕方に老人会の会長さんがこられましたよね。」
爺「客間に上がってもらったよなー。」
婆「お爺さん。納戸から上がりませんでしたか。」
爺「そうだよ。納戸の上がり口に(長靴が)あるよ。年を取ると物忘れしていけないよー。」
(参考)
稲わらなどを運ぶのにネコグルマという木製の一輪車を使っていました。はしご状の枠に車輪を取り付けてあり、手で持つ側は上にそっていました。西日本各地で使われていたそうです。
出雲地方の農家は”田の字様式”の造りで、玄関を入ってすぐの部屋を「中の間(ナカノマ)」、奧の客間は「表(オモテ)」です。オモテの裏が「納戸(ナンド)」でその横に「台所(ダイドコ)」があります。「にしんつま」は「西の端(にしのつま)」で、「家の西の端」です。なお、オモテをカミノマと言うなど、各部屋の呼び方は地域によって多少異なります。
(奥野栄)