爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第四十八話 おしのわ(2003年4月27日掲載)

【出雲弁】

「おしのわが、よつかえんのー。」

「今年の、ツバメは、へたくそだはで、どべちゃや、くそが、えっぱい、おちちょー、ますじね。」

「毎年、おんなじ、ツバメが、くーげな、てて、聞いた、ことが、あーがのー。」

「えんや、去年は、もちと、上手に、しちょー、ました、じね。」

「ほんな、ちがー、やつが、きたか、もっせんのー。」

「ひなが、かえー、ちーと、しんぶんがみ、しーちょった、てて、ましゃくにあいません、けん、オジジ、どげぞ、して、ごしなはいませよ。」

「去年みたいに、ベニヤなと、ぶら下げらかの。」

「卵、産んだ、みたい、ですけん、そろーっと、してごしなはいよ。」

「おんおん。わかっちょーが。」

「えんま、ひもと、ベニヤ、持ってきます、けん、お願いしますよ。」

「なにや。そげん、急に、言った、てて、腰が、なかなか、伸びせんがや。」

「”思い立ったが吉日”だてて、いーますがね。」

「おらにも、都合、ちーもんが、あーけんの。」

「おまえさんに、合わせた、てて、いつん、なーだい、わかー、しませんがね。」


【共通語訳】

「玄関に入りがけの土間が汚くて寄りつけないねー。」

「今年のツバメは下手みたいで泥やふんがたくさん落ちていますよ。」

「毎年、同じツバメがくると聞いたことがあるけどなー。」

「いいえ、去年はもう少し上手にしていましたよ。」

「それじゃ、違うツバメが来たかもしれないねー。」

「ひながかえると、新聞紙を敷いていても間に合いませんので、お爺さん、どうにかしてくださいよ。」

「去年のように、ベニヤでもぶら下げようかね。」

「卵を産んだようですから静かにしてくださいよ。」

「はいはい。分かっているよ。」

「今、ひもとベニヤを持ってきますからお願いしますよ。」

「なんだって。そんなに急に言っても、腰がなかなか伸びないよ。」

「”思い立ったが吉日”だと言いますよ。」

「私にも都合というものがあるからね。」

「おまえさんの都合に合わせていたら、いつになるのか分かりませんからね。」


(注釈)
 ツバメの初飛来を観察する「ツバメ前線」は「サクラ前線」より約二週間早いそうです。この「ツバメ前線」は、気温の変化より日照時間に影響されやすいと言われています。

(参考)
 出雲地方農家の”田の字様式”は、出雲地方だけでなく、中部地方から四国や九州北部にかけて広く分布しています。「おしのわ」は「臼庭(うすにわ)」で玄関を入ったところの土間です。昔は臼(うす)が置いてあり、米などをひいていたのでしょうか。

(奥野栄)

 

表紙ページ