爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第四十九話 ふたいぐち(2003年5月11日掲載)

【出雲弁】

「ババ。きゃん、とこに、一畑まんじーが、あーが、どげしたことかや」

「となーの、孫さんは、2歳児参り、だったげで、土産、ごさいましたじね」

「ほーん、そげかや。むかしゃ、坂下(さかした)で、バス降りて、石段、登った、もんだがのー」

「そげそげ。旅館や、土産もん屋が、あって、にぎやか、でしたがねー」

「石段の、途中で、線香、うっちょったじ」

「だんだんが、えっぱい、あって、たばこすーね、ちょーど、よかった、ですがねー」

「えまごら、バスが、上まで、のぼー、だけん、楽だがのー」

「一畑パークは、昭和36年に、できた、てて、テレビが、いっちょーましたじ」

「ゾウや、ライオンが、おったがのー」

「久しぶーに、みゃって、みましょや」

「一畑さん、てていわ、目の、お薬師さん、だけんのー」

「オジジ。みちけ、手、せっぱい、のばかいて、新聞、みちょらい、ますじね」

「ババ。こないだ、針に、糸、通すとき、ふたいぐちに、しわが、よっちょったじ」


【共通語訳】

「お婆さん。こんなところに、一畑まんじゅうがあるけども、どうしたことかい」

「隣のお孫さんは2歳児参りだったそうでお土産を頂きましたよ」

「ふうん、そうかい。昔は、坂下(さかした)でバスを降りて石段を登ったものだよなー」

「そうそう。旅館や土産物屋があって、にぎやかでしたよねー」

「石段の途中で線香を売っていたよ」

「段々がたくさんあって休憩するのにちょうどよかったですよねー」

「今ごろはバスが上まで登るから楽だよなー」

「一畑パークは昭和36年にできたとテレビがいっていましたよ」

「ゾウやライオンがいたよなー」

「久しぶりにお参りしてみましょうよ」

「一畑さんといえば目のお薬師さんだからねー」

「お爺さん。短い手を精いっぱい伸ばして新聞を見ておられますよ」

「お婆さん。こないだ、針に糸を通すとき、額にしわがよっていたよ」


(解説)
 「目のお薬師様」として全国的に信仰されている一畑寺では、毎年4月末から5月中旬にかけて、二才児参りと四才児お礼参りが行われます。数え年の二才児は肩から輪袈裟(わげさ)をかけてお参りし、数え年の四才になったら、その輪袈裟(わげさ)をお薬師様へお返しします。

(参考)
 「ふたいぐち」は「額」のことです。出雲弁では「みみたぶら(耳たぶ)」、「あごた(あご)」、「ほーげた(ほお)」などと言います。

(奥野栄)

 

表紙ページ