爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第五十話 てぼさく(2003年5月25日掲載)
【出雲弁】
婆「弟さんが、とこの、孫さんは、こないだ、誕生祝い、だった、げなね」
爺「そげだった、げなわ」
婆「嫁さんの、里も、こらいて、にぎやかに、さいた、みたいですね」
爺「拓哉の、ときは、一升もち、背負わせたら、あおのけに、まくれて、手足、ばたばた、させちょったがのー」
婆「ワッハッハ。あげでしたねー。弟さんが、とこは、どげでしただいねー」
爺「そーがの、拓哉とは、反対でのー。畳の縁に、けつまずいて、まくれて、もちの下で、手足、ばたばた、させちょったげなじ」
婆「ワッハッハ。目に、みえーやですね。そーで、弟さんが、とこの、孫さんは、なに、とらいただいね」
爺「拓哉と、えっしょで、筆、取った、げなわ」
婆「ほーん。ほんな、学者さんに、なって、かもっしぇませんねー」
爺「おらは、物差し、取ったげなが、ババは、なに、取った、てて、きいちょーかや」
婆「おちゃ、そろばん、だった、みたいですじね」
爺「そーだけん、ババは、きんちゃくの、ひもが、かてわ」
婆「おまえさんは、物差し、とらいたわりには、てぼさくですがね」
【共通語訳】
婆「弟さんところのお孫さんは、こないだ、誕生祝いだったそうですね」
爺「そうだったようだよ」
婆「お嫁さんの里からも来られて、にぎやかにお祝いをされたようですね」
爺「拓哉のときは、一升もちを背負わせたら、あおむけに転んで手足をばたばたさせていたよねー」
婆「ワッハッハ。そうでしたねー。弟さんのところは、どうでしたでしょうかねー」
爺「それがね、拓哉とは反対でねー。畳の縁につまずいて転んで、もちの下で手足をばたばたさせていたそうだよ」
婆「ワッハッハ。目に見えるようですね。それで、弟さんところのお孫さんは、何を取ったのでしょうかね」
爺「拓哉と一緒で筆を取ったそうだよ」
婆「ふうん。それじゃ、学者になるかもしれませんねー」
爺「おれは物差しを取ったそうだが、お婆さんは何を取ったと聞いているかい」
婆「私はそろばんだったようですよ」
爺「それだから、お婆さんは財布のひもが固いよ」
婆「おまえさんは物差しを取ったにしては不器用ですよね」
(解説)
出雲地方には、子どもの初誕生日にお嫁さんの両親を呼んで、お祝いをする習慣があります。子どもに一升もちを背負わせて歩かせたり、置いてあるそろばんや筆などを取らせて将来の職業を占ったりします。置く物は地域や家庭によって違うようです。
(参考)
「てぼさく」は「不器用な人」という意味です。手が棒のようになって、ものごとが器用にできない人、「手棒(てぼう)さく」が語源かもしれません。
(奥野栄)