爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第五十一話 いかげん(湯加減)(2003年6月8日掲載)
【出雲弁】
婆「きょうは、端午の節句ですけん、ショウブ湯に、しましたじね」
爺「おーん。えー、香りが、すーのー」
婆「オジジ。いかげんは、どげですかいね」
爺「おんおん、えー、いだじー」
婆「ほんな、おちゃ、だいどこ、しますけんね」
・・・・・
爺「おい、ババ。なんぼでも、あちなって、くーが、ふが、もえちょらせんかや」
婆「はい、はい、ちょっこ、まっちょって、ごしなはいよ」
・・・・・
婆「あらら、こらまたなんだら。まき、みんな、取った、はずだね、まんだ、のこっちょーましたわ」
爺「あいけ、おらは、石川五右衛門だねけんの」
婆「ちょっこし、まっちょって、ごしなはいよ。えんま、水、くんで、きますけん」
爺「はやはや、よーね、いだーやなが」
婆「オジジ。おちやちも、わけもんらち、みたいに、ガス風呂に、しましょや」
爺「ババ。しゃんこた、あとで、え、けん、はや、水、もってきて、ごいた」
【共通語訳】
婆「きょうは端午の節句ですのでショウブ湯にしましたよ」
爺「うーん。いい香りがするねー」
婆「お爺さん。湯加減はどうですか」
爺「はいはい。良い湯だよー」
婆「それじゃ、私は炊事をしますからね」
・・・・・
爺「おい、お婆さん。いくらでも熱くなってくるけど火が燃えていないかい」
婆「はい、はい、少し待ってくださいよ」
・・・・・
婆「あれあれ、これはどうしたことでしょう。まきを全部取ったはずなのに、まだ残っていましたよ」
爺「ああもう、私は石川五右衛門じゃないからね」
婆「少し待ってくださいよ。いま水をくんできますから」
爺「早く早く、完全にゆだってしまいそうだよ」
婆「お爺さん。私たちも若い人たちのようにガス風呂にしましょうよ」
爺「お婆さん。そんなことは後でいいから早く水を持ってきてくれ」
(解説)
50年前は五右衛門風呂(ごえもんぶろ)でした。入浴時には浮いている底板を踏み沈めて入るのですが、体重の軽い子どもたちにとっては難しい作業でした。
(参考)
出雲弁の「ゆ」音は「え」または「い」と発音します。「湯(ゆ)」は全て「い」と発音しますので「湯加減」は「いかげん」となります。
(奥野栄)