爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第五十二話 けんずい(2003年6月22日掲載)
【出雲弁】
婆「三軒目は、きょうが、たてまえ、ですとね」
爺「そげいわ、あさまから、にぎやかだのー」
婆「さっき、近所のしやちと、建瑞(けんずい)、もって、いっちょき、ましたけんね」
爺「だんだん、だんだん。そーで、もちまきは、何時かや」
婆「6時だ、てて、いっちょらい、ましたじね」
爺「きょうは、えなげな、天気だね、おぞ、ふらな、え、がのー」
婆「あらら、ちたて、ふーもんが、しちょーますじね」
爺「康夫が、嫁さん、まー、ちーで、なやんざしき、かまった、ときゃ、ざざぶり、だったがのー」
婆「おまえさんが、しっちかっち、しちょらいますだけん、むらさが、きましたわねー」
爺「大工さんらちの、祝儀が、みえんだけん、さんご、しちょたわや」
婆「しゃんこた、にょばらちに、任せなはら、えねかーね」
爺「ババ。おまえは、スルメが、用意して、なかった、てて、買いもんに、行きとっちゃったがや」
婆「そげでした、かいねー。おまえさんは、えらんこと、ばっか、よー、覚えちょらいますね。」
【共通語訳】
婆「三軒向こうの家は、きょうが上棟式だそうですよ」
爺「そういえば朝からにぎやかだねー」
婆「さっき近所の方たちと上棟式のお祝いの酒をもって行っておきましたからね」
爺「ありがとう。それで、もちまきは何時からかい」
婆「6時だと言っておられましたよ」
爺「きょうは変な天候だけど、強い雨が降らなければいいよなー」
婆「あれあれ、少しずつ降ってきましたよ」
爺「康夫がお嫁さんをもらうというので納屋の座敷を建てたときは土砂降りだったよなー」
婆「おまえさんがぐずぐずしているから、にわか雨が降りましたよ」
爺「大工さんたちの祝儀がみえないから探していたんだよ」
婆「そんなことは女性たちに任せればいいのに」
爺「お婆さん。おまえはスルメが用意してなかったといって買いものに行きていたんだよ」
婆「そうでしたかねー。おまえさんはどうでもいいことばかりよく覚えているんだから」
(解説)
家を建てるのは一生一代の大仕事です。出雲地方では「たてまえ(棟上げ)」の日に「建瑞(けんずい)」を持ってお祝いに駆け付けます。夕方から上棟式が始まり最後にはもちまきが行われます。
(参考)
広辞苑によると「けんずい」は『(大工の隠語) 酒』とあります。出雲地方では上棟式のお祝いに持っていく酒のことです。
(奥野栄)