爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第五十三話 なすび(2003年7月13日掲載)

【出雲弁】

「オジジ。畑、行って、ナスビと、キーリ、採ってきて、ごしなはいね」

「また、キーリなますと、ナスビの煮しめ、かや。」

「なんぼでも、なーますだけん、くゎな、えけましぇん、がね」

「ちた、ほかに、ねかや」

「ほんな、きょうは、キーリの浅漬けと、ナスビの焼いたに、しましょかね」

「かわーばえが、さんのー」

「えまが、旬で、いっち、まいですけん、食べて、ごしなはいよ」

「けさがた、浦の、おばさんが、きちょっちゃった、がや」

「あいけ、知っちょらいました、かね」

「畑の、もどーしに、ばったー、合ってのー。カレーの干物、買ってまった、てて、よろこんどっちゃったじ」

「盆に、孫らちが、戻った、ときにでも、くわせらかと、もっちょーましたどもねー」

「ババ。浦のおばさん、また、来てだわや」

「しかた、あーましぇんねー。ほんな、焼きましょかねー」

「今夜は、泡のでーもんが、え、のー」


【共通語訳】

「お爺さん。畑へ行ってナスビとキューリを採ってきてくださいよ」

「また、キューリなますとナスビの煮しめかい。」

「いくらでも実がなるから食べなければいけませんよ」

「もう少しほかに食べるものがないかい」

「それじゃ、きょうはキューリの浅漬けと焼きナスビにしましょかね」

「代わり映えがしないねー」

「今が旬で一番おいしいから食べてくださいよ」

「けさ浦のおばさんが行商に来ていただろう」

「あら、知っていたんですか」

「畑仕事の帰りにばったり合ってねー。カレーの干物を買ってもらったといって喜んでいたよ」

「盆に孫たちが戻ったときにでも食べさせようかと思っていましたけれどもねー」

「お婆さん。浦のおばさんは、また売りに来るよ」

「しかたがないですねー。それじゃ、焼きましょうかねー」

「今夜はビールが欲しいなー」


(解説)
 昔は行商のおばさんたちが物流の一端を担い食卓を潤していましたが、最近は見かけることが少なくなりました。

(参考)
 全国の方言を「本州東部方言」、「本州西部方言」、「九州方言」、「琉球方言」と4つに分ける学者がいます。東京など「本州東部方言」では「ナス」と言いますが、私たちの「本州西部方言」では「ナスビ」となります。

(奥野栄)

 

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