爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第五十四話 アジウリ(2003年7月27日掲載)
【出雲弁】
婆「となーの、月下美人、今夜、咲く、みたいです、じね」
爺「も、そぎゃん、時期かいのー」
婆「見に、来て、ごしなはい、てて、いっちょらいましたじ」
爺「ほんな、こないだ、まった、吟醸酒が、あーけん、あいつ、持って、いかかのー」
婆「ことしゃ、あげん、のんな、はーなよ」
爺「だてて、ババ。なかなか、咲かんだけん、まっちょられん、がや」
婆「じねんじねんに、つぼみが、ふらいて、くーやちを、待つが、えーとこ、ですわね」
爺「となーの、えんきょさんも、好きだだけん、け、メーターが、あがっての」
婆「花が、ふらくころには、おまえさんやちゃ、へべれけ、でしたじね」
爺「しゃんと、しちょったが。なんとも、いわれん、え、臭いが、しっちょたじ」
婆「酒の、臭いだ、あーしませんだったかね」
爺「花も、きれいだったじ。ババ。おまえの、わけころ、みたい、だったがや」
婆「あいけ、あげん、かまーだ、ねがね。はちかしがね。ほんな、ばんめし、食ってから、おじゃま、しましょかね。おちゃ、アジウリ、もって、いきますけんね」
【共通語訳】
婆「隣の月下美人は今夜咲くみたいですよ」
爺「もう、そんな時期かねー」
婆「見に来てくださいと言っておられましたよ」
爺「それじゃ、こないだもらった吟醸酒があるから、それを持って行こうかねー」
婆「今年はあんまり飲まないでくださいよ」
爺「だってお婆さん。なかなか咲かなくて待っていられないよ」
婆「少しずつ、つぼみが開くのを待つのが良いんですよ」
爺「隣のお爺さんもお酒が好きだから、つい調子がでてね」
婆「花が開くころには、おまえさんたちはへべれけでしたよ」
爺「しゃんとしていたよ。なんともいえない良い香がしていたよ」
婆「酒の臭いじゃありませんでしたか」
爺「花もきれいだったよ。お婆さん。おまえの若いころみたいだったよ」
婆「ああもう、そんなにからかうものじゃありませんよ。恥ずかしいじゃないですか。それじゃ、夕ご飯を食べてから隣りにおじゃましましょうかね。私はマクワウリを持っていきますからね」
(解説)
下に向かっていた月下美人のつぼみは反転して上向きとなり、開花が近づくと横向きになるそうです。美しい姿と華やかな香りで魅了する月下美人の花は年に一度数時間で燃えつきる夜の女王です。
(参考)
今ではメロンを食べますが、昭和30年代ごろまではアジウリをよく食べていました。マクワウリといって美濃国本巣郡真桑村(現:岐阜県真正町)産が有名だったそうです。
(奥野栄)