爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第五十五話 こでかき(2003年8月10日掲載)

【出雲弁】

「オジジ。おぞ、のくん、ならんうちに、墓掃除に、行きましょやね」

「おんおん、そげだのー」

「となーやちゃ、あさま、とーから、いかいましたじね」

「ほんな、ネコに、砂、積んで、行くけんの」

「おちゃ、タワシと、おけ、持って、行きますけん、オジジ、灯ろうさん、持って、行って、ごしなはいね」

「あいけ、おらは、スコップや、こでかきも、持って、いかな、えけん、けんのー」

「あさまっぱらから、ぐだぐだ、いわんこに、さっさと、してごしなはいよ」

 ・・・・・・

「墓石も磨いたし、砂も入れて、きれいに、なったのー」

「こーで、仏さんが、迎えられますわ」

「ほんな、ババ。線香に、火つけて、ごいた」

・・・・・・・

「やいな、わっせて、来ましたわ」

「け、おまえは、しゃんしゃん、しちょーやなども、どこだい、ぬけーちょーの」

「なんがねまいさん。おまえさんほどだ、あーしませんわね」


【共通語訳】

「お爺さん。あんまり暑くならないうちに墓掃除に行きましょよね」

「はいはい、そうだねー」

「隣は朝早くから行かれましたよ」

「それじゃ、ネコ車に砂を積んで行くからね」

「私はタワシとおけを持って行きまから、お爺さん、灯ろうを持って行ってくださいね」

「ああもう、おれはスコップやくま手も持っていかないといけないのにー」

「早朝からぐずぐず言わずにさっさとしてくださいよ」

 ・・・・・・

「墓石も磨いたし、砂も入れてきれいになったねー」

「これで、仏様が迎えられますよ」

「それじゃ、お婆さん。線香に火つけてくれ」

・・・・・・・

「あれまあ、線香を忘れて来ましたよ」

「もう、おまえはしっかりしているようだけど、どこか抜けているね」

「何がおまえさん。おまえさんほどではありませんよ」


(解説)
 盆の始まりの8月13日には門・庭・墓などで麻殻(オガラ)を燃して迎え火をし、盆の終わりの16日には送り火をして仏様を送ります。祖先を大切にするこうした風習は後世に残したいものです。

(参考)
 「こでかき」は「こで(枯れ落ちた葉や枝)」を「かき」集める道具で「くま手」のことです。「ばりん」と呼ぶ所もあります。

(奥野栄)

 

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