爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第五十七話 おら(2003年9月14日掲載)
【出雲弁】
爺「ババ。見てみた。えー、月夜だじ」
婆「そげいわ、きょうは、中秋の名月でしたね」
爺「火、消して、ごいてだねか」
婆「ほんな、お茶なと、持ってきましょかね。よっこらしょ」
爺「団子は、ねかや」
婆「今夜が、月見だ、なんてて、わっせちょー、ましたわね」
(パッチン:電灯を消す音)・・・・・
爺「ババ。月の、明かりで、新聞の字が、よめーじ」
婆「あら、オジジ。おまえさんの、きんか頭が、月みたいに、ひかっちょー、ますじね」
爺「ほーん。おらの、頭も、満月みたいに、てっちょー、かいの」
婆「えんや。おまえさんのは、三日月ですわね」
爺「庭の、ほから、みーちーと、おらも、満月かもっせんじ」
婆「おまえさんと、月では、そーこそ、月とスッポンですがね」
爺「あいけ。スッポンと、おらを、えっしょくたに、せんで、ごいた」
【共通語訳】
爺「お婆さん。見てみろよ。良い月夜だよ」
婆「そういえば、きょうは中秋の名月でしたね」
爺「電灯を消してくれないか」
婆「それじゃ、お茶でも持ってきましょうかね。よっこらしょ」
爺「団子は無いかい」
婆「今夜が月見だということを忘れていましたよ」
(パッチン:電灯を消す音)・・・・・
爺「お婆さん。月の明かりで新聞の字が読めるよ」
婆「あら、お爺さん。おまえさんの、きんか頭が月みたいに光っていますよ」
爺「へえー。おれの頭も満月のように照っているかい」
婆「いいえ。おまえさんのは三日月ですよ」
爺「庭のほうから見れば、おれも満月かもしれないよ」
婆「おまえさんと月では、それこそ、月とスッポンですよ」
爺「えいもう。スッポンとおれを一緒にしないでくれ」
(解説)
月見の起源は不明ですが、西暦909年に醍醐天皇が月見をしたという記録が残っているそうです。江戸時代には庶民も月見をするようになり収穫した農作物を供えるようになったそうです。松江の満願寺では毎年観月会が催されます。
(参考)
「おら」は「おれ(私)」という意味です。江戸時代は「おれ」「おいら」とともに江戸町人の女性も使っていたそうです。半世紀前には出雲地方の一部でも女性が「おら」を使っていました。
(奥野栄)