爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第五十八話 たばこ(2003年9月28日掲載)

【出雲弁】

「そこは、ダイコン、まきますけん、畝、もちょんぼし、たかんして、ごしなはいよ」

「おんおん、わかっちょーが。おまえも、むらが、できんやね、きんぴ、まいて、ごいたよ」

  ・・・・・

「オジジ。タバコ、しましょかね」

「おんおん、そげだの」

「そけぐちに、奈良漬、持ってきましたじね」

「ひとつ、よばれて、みょかの」

「酒かすの、じょうとが、手に、はーましてね」

「か、えぐあいに、つかっちょーわ。そーね、ウリも、じょうとだの」

「あいけ。か、ウリだ、なて、キーリ、ですわね」

「け。また、おらを、どまかさか、ともってー。か、ウリだがや」

「作った、おちが、キーリだ、てて、いっちょーに、おまえさんも、えらい、きこはらいますねー」

「さ、ほんの、ことかや」

「オジジ、どまかいた、てて、しかた、あーしませんがね。そーよま、そげん、つまん、ちーと、のどが、渇きますじね」


【共通語訳】

「そこはダイコンまきますから、畝をもう少し高くしてくださいよ」

「はいはい、分かっているよ。おまえもむらが出来ないように金肥をまいてくれよ」

  ・・・・・

「お爺さん。休憩をしましょうか」

「はいはい、そうだね」

「漬物に奈良漬を持ってきましたよ」

「ひとつ、食べてみようかね」

「酒かすの良いのが手に入りましてね」

「これは、上手に漬かっているよ。それにウリも良いね」

「ああもう。これはウリじゃなくてキューリですよ」

「もう。また、おれをだまそうかと思ってー。これはウリだよ」

「作った私がキューリだと言っているのに、おまえさんも随分と強情を張られますねー」

「それは、ほんとうのことかい」

「お爺さんをだましてもしかたがありませんよ。それより、そんなに食べるとのどが渇きますよ」


(解説)
 室町時代に奈良で生まれた美酒「南都諸白(もろはく)」の酒かすで漬けたものを奈良漬と呼んでいました。その後、酒かすで漬けたものは全て奈良漬と呼ぶようになったそうです。

(参考)
 一休みしてタバコを一服吸うことから、転じて休憩するという意味になりました。江戸時代の歌舞伎にも使われていたようです。現在では新潟県佐渡、山口県長門、鹿児島県奄美大島などで使われています。

(奥野栄)

 

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