爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第五十九話 よんべけ(2003年10月12日掲載)
【出雲弁】
婆「オジジ。はや、起きて、ごしなはいよ」
爺「おんおん、なんかいのー」
婆「よんべ、風が、がいね、ふいちょーましたけん、ギンナン、拾いに、行きましょや」
爺「まんだ、うすぐらい、がや」
婆「なに、いっちょらっしゃら。よそさんやちゃ、あさま、とーから、いかいますじね」
爺「よんべけが、まんだ、のこっちょってのー」
婆「弟さんが、とこで、よばれすぎ、ですじね。酒のけが、抜けますけん、はや、起きて、せわやきなはい。奈緒美と拓也が、まっちょー、ますじね」
爺「酔い覚ましに、柿でも、はいで、ごいた」
婆「け、ほんね。手間の、かかーし、だねー」
・・・・・
婆「はいしょ。食って、ごしなはいよ」
爺「だんだん、だんだん」
・・・・・
爺「やっぱ、えらて、えけんけん、も、ちょんぼし、寝せてごいた」
婆「け、ほんね。役立たずだがー。孫らちの、ほが、よっぽど、あてん、なーわ」
【共通語訳】
婆「お爺さん。早く、起きてくださいよ」
爺「はいはい、何かい」
婆「夕べ風が随分と吹いていたので、ギンナンを拾いに行きましょうよ」
爺「まだ、薄暗いよ」
婆「なにを言っているの。よその人たちは朝早くから行くんですよ」
爺「夕べの疲れが、まだ残っていてねー」
婆「弟さんのところでごちそうになりすぎですよ。酒が抜けますから、早く起きて仕事をしなさいよ。奈緒美と拓也が待っていますよ」
爺「酔い覚ましに柿をむいてくれ」
婆「もう、ほんとうに。手間のかかる人ですねー」
・・・・・
婆「はい、どうぞ。食べてくださいよ」
爺「ありがとう、ありがとう」
・・・・・
爺「やはり、体がだるくていけないから、もう少し寝させてくれ」
婆「もう、ほんとうに。役に立たないねー。孫たちのほうがよっぽどあてになりますよ」
(解説)
強風の後にはギンナンが多数落ちています。夕べ飲み過ぎたお爺さんにとってあの臭いはたまりません。
(参考)
「よんべけ」は「昨夜の疲れ」という意味で、広辞苑には「ゆうべけ」で載っています。
「たくさん」という意味を表す出雲弁はたくさんあります。「がいな」「ごーぎに」のように言葉自体に「たくさん」の意味があるものと「うまにくわせーほど」「おつしかけーほど」のように例え話で「たくさん」の意味を表すものに分けられます。
(奥野栄)