爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第六十話 はいごん(2003年10月26日掲載)

【出雲弁】

「朝晩が、すわすわ、す−やん、なーましたがねー」

「よんべ、しょんべしーに、行ったとき、外の、風が、さぶかったじ」

「わけもんらち、みたいに、家ん中に、せんちが、あーと、えですがねー」

「なかなか、先立つもんが、なてのー」

「三軒目らちゃ、わけしが、しゃんしゃん、しちょらいけん、じき、勝手が、なおーますがねー」

「そげいわ、御殿みたいな、母屋が建ったがのー」

「おちん、わけもんらちゃ、みりんぼだけん、じぇねやなんか、たまー、しませんわね」

「あすこの、ババは、かたしゃだけん、水道代で、嫁さんと、はいごん、しちゃったげなのー」

「そげそげ。嫁さんが、洗濯すーと、水道代が、あばかんてて、ババが、ごどごど、いっちゃたげなじね」

「なんでも、ほどほどが、えっち、えのー」

「おまえさんも、ほーらちに、酒、のんじょったてて、えけませんじ。今夜から、晩酌は、一本にしましょやねー」

「あいけー、なんで、しゃん、話しに、なーかや」


【共通語訳】

「朝晩が冷えるようになりましたよねー」

「夕べトイレに行ったとき外の風が冷たかったよ」

「若い者のように家の中にトイレがあるといいですよねー」

「なかなか、お金がなくてねー」

「三軒隣の若い人はしっかりしているから、すぐ勝手がなおりますよねー」

「そういえば、御殿のような母屋が建ったよなー」

「うちの若い者は見たらなんでも欲しくなる性格だからお金なんか貯まらないよね」

「あそこのお婆さんはけちだから水道代のことでお嫁さんと騒ぎがあったそうだねー」

「そうそう。お嫁さんが洗濯すると水道代がかなわないとお婆さんが小言をいったそうですよ」

「なんでも、ほどほどがが一番いいよなー」

「おまえさんも、酒を飲みたいだけだけ飲んでいてはいけませんよ。今夜から晩酌は一本にしましょうよね」

「ああもう、どうしてそんな話しになるのかい」


(解説)
 40年前の農家には便所と母屋が別にありました。井戸水を使用していた地域にも水道が普及して衛生的な水が安定して供給されるようになりました。

(参考)
 昔は、「軍が負ける」ことを「敗軍(はいぐん)する」と言ったそうです。負けて大騒ぎしたところから、「はいぐん」が大騒ぎするという意味になり、「はいごん」に音韻変化したかもしれません。

(奥野栄)

 

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