爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第六十一話 さんだん(2003年11月9日掲載)
【出雲弁】
婆「オジジ。えらい、さむ、なーましたがね」
爺「そげだがのー」
婆「きょうは、えのこさん、ですけん、こたつでも、だしましょや」
爺「そげ、思ってのー。さんだん、しちょいたじ」
婆「おまえさんに、しちゃ、えらい、手回しが、え、ですねー」
爺「ババ。畳上げ、てごして、ごいた。おら、ふとーでは、もちゃがらん、けん」
婆「あいけ、おまえさんも、年、とらっしゃったね。わけ、こら、ふとーで、さいたね」
・・・・・
爺「ババ。ヤグラが、みえんがのー」
婆「拓哉が、跳び箱の、練習だ、てて、座布団、かぶせて、とんじょー、ましたじね」
爺「ジーノとフバシは」
婆「奈緒美が、どろままこに、つかっちょー、ましたじ」
爺「あいけー、えけじご、ばっかだのー」
婆「オジジ。おまえさんの、孫、ですけん、しかた、あーませんわね」
【共通語訳】
婆「お爺さん。随分と寒くなりましたよね」
爺「そうだよなー」
婆「きょうは、『亥(い)の子さん』ですから、こたつを出しましょうよ」
爺「そう思ってねー。準備をしておいたよ」
婆「おまえさんにしては、随分、手回しが良いですねー」
爺「お婆さん。畳上げを手伝ってくれよ。おれ一人では持ち上げられないよ」
婆「ああもう、おまえさんも年を取ったね。若いころは一人でされたのに」
・・・・・
爺「お婆さん。ヤグラが見えないよー」
婆「拓哉が跳び箱の練習だといって座布団をかぶせて跳んでいましたよ」
爺「十能(じゅうのう)と火ばしはどうしたかい」
婆「奈緒美が泥遊びに使っていましたよ」
爺「ああもう、いたずらっこ、ばかりだねー」
婆「お爺さん。おまえさんの孫ですからしかたありませんよ」
(解説)
陰暦10月最初の亥の日を「亥(い)の子さん」といって「亥(い)の子餅」を食べて子孫繁栄などをお祝いします。この日にこたつを出すと火事が起こらないという風習がありました。
(参考)
「さんだん」は算段(さんだん)が語源です。出雲平野では「準備」という意味で使っていますが、仁多郡や安来では「探す」という意味で使われているそうです。一つの言葉が、同じ出雲地方の中でも違った意味で使われています。
(奥野栄)