爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第六十二話 さんご(2003年11月23日掲載)

【出雲弁】

「ババ。ごそごそ、ごそごそ、なに、しちょーかや」

「ちょっこ、みえんもんが、あーましてねー」

「なんが、みえんかや」

「新聞に、せいもんばらいの、広告が、はさげて、あった、てて、となーの、ババが、いっちょらいましてねー」

「どぎゃん、色の、広告、だったかや」

「黄色けな、もんだった、やな、気が、しますがねー」

「さっき、三軒目の、オジジに、茶菓子、包んどっちゃったじ」

「やいな。そげでしたわ」

「け、おまえも、ちょちょくさだのー」

「そげいわ、なかおりが、見つからで、広告で、つつんましたわ」

「(ワッハッハ)年、とーと、ただもん、さんご、すーことが、よけん、なーがのー」

「(ワッハッハ)おまえさん、みたいね、大事に、しまいこんだ、場所、わっせー、ことも、あーます、だけんねー」


【共通語訳】

「お婆さん。ごそごそ、ごそごそ、何をしているのかい」

「ちょっと、見えないものがありましてねー」

「何が見えないかい」

「新聞に大売り出しの広告が挟んであったと隣のお婆さんが言っておられてねー」

「何色の広告だったかい」

「黄色だったような気がするけどねー」

「さっき、三軒目のお爺さんに茶菓子を包んでいたよ」

「やれしまった。そうでしたよ」

「もう、おまえは慌て者だからなー」

「そういえば、中折り紙(なかおりがみ)が見つからなくて広告紙で包みましたよ」

「(ワッハッハ)年を取るとしだいしだいに探すことが多くなるよなー」

「(ワッハッハ)おまえさんのように大事にしまい込んだ場所を忘れることもありますからねー」


(解説)
 「誓文払い(せいもんばらい)」は陰暦10月20日に行われる京都の行事です。それに併せて京都や大阪の商店では大売出しをします。平田でも「せーもんばらいの大売り出し」が行われていました。「中折り紙(なかおりがみ)」は室町時代から造られている半紙の一種です。厚くて物を包むのに適しています。

(参考)
 「さんご」は「算考(さんごう)」が語源で、「尋ねる」とか「探す」という意味で用いるのは出雲地方だけのようです。群馬県群馬郡では「さんげえ」と言うそうです。

(奥野栄)

 

表紙ページ