爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第六十四話 おぞい(2003年12月28日掲載)

【出雲弁】

「そろそろ、もち、つかな、えけんに、おちん、わけもんは、まんだ、かえらんじね」

「どこぞ、いきたかや」

「魚、釣って、くーけん、てて、あさま、とーから、出かけちゃったわね」

「えまんご、ワカナが、つれちょー、げな、けんの」

「おかさんは、クドで、い、わかいて、まっちょってだね、け、ほんねー」

「ババ。ウス、のくめて、ごいた。おらが、ついて、みーけん」

「やめちょきなはいませ。また、腰が、えたん、なーましじね」

「せわねけん、てがえし、やってごいた」

「おまえさんの、てがえしや、なんか、おぞて、やですけんね」

「あいけ。ほんな、おかさんに、やって、まーけん、えが、えが」

「や、きちゃ。おまえさんも、え、つもーだわ。おかさん、だてて、おぞて、やだ、いってだわ」

「おらも、むかしゃ、えっと、ついた、もんだねのー」

「(ワッハッハ)わが年、考えて、みなはいませ」

・・・・・

「あら。わけもんが、帰ってきた、みたいですじね」


【共通語訳】

「そろそろ、もちをつかないといけないのに、わが家の若い者は、まだ帰ってこないよ」

「どこか行ったかい」

「魚を釣りに行くといって朝早くから出かけましたよ」

「今ごろ、ハマチが釣れているそうだからな」

「お母さんはカマドで湯を沸かして待っているのに、もう、ほんとうにー」

「お婆さん。ウスを暖めてくれ。私がついてみるから」

「やめておきなさいよ。また、腰が痛くなりますよ」

「大丈夫だから”てがえし”をやってくれ」

「おまえさんの”てがえし”なんか怖くて嫌ですよ」

「ああもう。それじゃあ、お母さんにやってもらうから、いいよいいよ」

「あら、いやだ。おまえさんも、いいつもりですよ。お母さんだって怖くて嫌だと言いますよ」

「私も、昔は随分とついたのになー」

「(ワッハッハ)自分の年を考えてみなさいよ」

・・・・・

「あれ。若い者が帰ってきたようですよ」


(解説)
 もちをつく時にウスが冷えていると「かねもち(米粒が残っているもち)」になってしまいます。キネの動きに合わせてウスの中をひっくり返すことを「てがえし」といって互いの息を合わせることが大切です。

(参考)
 「おぞい」は「恐ろしい」とか「怖い」という意味で、出雲弁以外の方言にも残っています。源氏物語には「おどろおどろしく をぞきやうなりとて」と書いてあるそうです。


(奥野栄)

 

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