爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第六十五話 ざまく(2004年1月11日掲載)
【出雲弁】
婆「正月も、あっちーまでしたがねー」
爺「も、じき、とんどさんだのー」
婆「あげですじね。持っていくもんが、あら、だいちょいて、ごしなはいよ」
爺「隆史の、書き初めが、置いてあったが、かな釘が折れたやな字だのー」
婆「4年生にも、なーね、なんぞかんぞが、ざまくだてて、学校の先生が、いっちょらっしゃった、げなじね」
爺「だーね、似ただいのー」
婆「だーだ、もんでね。おまえさんに、きまっちょー、ますわね」
爺「おらも、字が下手だども、メメジが、はたやな字だじ」
婆「おまえさんに、掃除してまーと、隅に、ゴミが、のこっちょーますがね」
爺「おまえが、しゃんこと、ばっか、いーけん、おらも、てご、すー気が、ななーわや。ちた、誉めて、ごすだわや」
婆「オジジ。なに、子どもみたいなこと、いっとらっしゃら」
【共通語訳】
婆「正月もあっという間でしたよねー」
爺「もうすぐ、とんどさんだねー」
婆「そうですよ。持っていく物があれば出しておいてくださいよ」
爺「隆史の書き初めが置いてあったが、釘が折れたような(角張った)字だねー」
婆「4年生にもなるのに何をしても乱雑だと学校の先生が言っておられたそうですよ」
爺「だれに似ただろうかねー」
婆「だれでもありませんよ。おまえさんに決まっていますよ」
爺「私も字が下手だけれども(隆史と違って)ミミズがはったような字だよ」
婆「おまえさんに掃除をしてもらうと隅にゴミが残っていますよ」
爺「おまえが、そんなことばっかり言うから私も手伝う気がなくなるんだよ。少しは褒めてくれよ」
婆「お爺さん。何を子どものようなことを言っているんですか」
(解説)
「とんどさん」は小正月(1月15日)にしめ縄などの正月飾りや古いお札などを燃やす行事です。字が上手になるように書き初めも火の中に入れました。最後にはもち焼きがあり子どもたちの楽しい冬の行事の一つでした。
(参考)
「ざまく」の語源は分かりませんが日本国語大辞典の用例出典をみると四段役者目録(1646-53年)、わらんべ草(1660年)、俳諧・炭俵(1694年)などが載っていますので江戸時代には盛んに使われていたかもしれません。
(奥野栄)