爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第六十六話 たてる(2004年1月25日掲載)
【出雲弁】
爺「きょうは、底冷えがして、さむがのー」
婆「大寒ですけんね」
爺「今夜は、なんぞ、あちもんが、えのー」
婆「ふろふき大根、しますけん、畑から、採ってきて、ごしなはい」
爺「あいけ。おてんとさんが、でちょーときに、いーだわや。日がおちーやん、なってからでは、さむがや」
婆「ふろふき大根は、体が、のくもーますじね。こざさらも、やんじょーますがね」
爺「ほんな、ま、いきてこらか」
・・・・・
爺「おー、さぶかったじ。ババ。こーで、えかいの」
婆「だんだん、だんだん。オジジ、そこ、クドで、手、あぶって、ごしなはいね」
爺「ババ。気が利くの。ちょっこ、あたらして、ごいた」
婆「オジジ。ちゃんと、戸、たてて、ごしなはいよ。風が、ひゃって、えけませんがね」
爺「手が、ちべたて、いーこと、きかんがや。おまえ、たてて、ごいた」
婆「おちゃ、だいどこで、手が、ふさがっちょーますけん、わでやって、ごしなはいよ」
【共通語訳】
爺「きょうは底冷えがして寒いよなー」
婆「大寒ですからね」
爺「今夜は何か熱い物がいいなー」
婆「ふろふき大根をしますから畑から(大根を)採ってきてください」
爺「ああもう。太陽が出ているときに言えよ。日が落ちるようになってからでは寒いよ」
婆「ふろふき大根は体が暖まりますよ。粉雪もやんでいますよ」
爺「それじゃ、行ってこようか」
・・・・・
爺「おお、寒かったよ。お婆さん。これで良いかい」
婆「ありがとう、ありがとう。お爺さん、クドで手をあぶってくださいね」
爺「お婆さん。気が利くね。少しあたらしてくれ」
婆「お爺さん。ちゃんと戸を閉めてくださいよ。風が入っていけないですよ」
爺「手が冷たくて、いうことをきかないよ。おまえ(戸を)閉めてくれよ」
婆「私は炊事で手がふさがっていますから自分でしてくださいよ」
(解説)
今年は1月21日が大寒です。一年で最も寒い時期で武道ではこのころに寒げいこが行われます。寒い日に食べるふろふき大根は体が暖まります。
(参考)
「戸をたてる」は古事記の天照大御神岩戸隠れのところに出てくるそうです。スサノオノミコトの乱行に怒った天照大御神が「天岩屋戸(あまのいわやど)をたてて、さしこもりましましき」と書いてあるそうです。
(奥野栄)