爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第六十七話 くびんじゃく(2004年2月8日掲載)

【出雲弁】

「節分が済んでも、まんだ、さむですがねー」

「くびんじゃくが、すわすわして、えけんけん、てのごい、だいてごいた」

「せきに、くびもちー、編んで、あげましたね、どげ、さいましたかね」

「もったいなてのー。なかなか、つかーときがねが」

「こないだ、じげの、寄りに、ほーかぶーして、くびんじゃくに、てのごい、まいて、いかいましたがねー」

「あげだったかいのー」

「おっその、えんきょさんやちゃ、シャッポかべって、くびもちー、しちょらいましたじね」

「あら、昔から、ダテコキだけんのー」

「おまえさんも、ちた、ハイカラしますだわね」

「おらには、にあわんが」

「あげん、びんぼげなかっこ、してまったてて、おちが、はちかしですけんね」

「ババ。ほーかぶーは、のくじ。おまえも、やってみーだわや」

「あいけ、おまえさんと、いっしょに、さんでごしなはいよ」


【共通語訳】

「節分が済んでも、まだ、寒いですよねー」

「首がすうすうしていけないから手ぬぐいを出してくれ」

「年末にマフラーを編んであげたのに、どうしました」

「もったいなくてねー。なかなか使うときがないんだよ」

「こないだ、集落の寄り合いにほおかむりして首には手ぬぐいを巻いて行かれましたよ」

「そうだったかねー」

「後ろのご隠居さんは帽子をかぶってマフラーをしておられましたよ」

「あいつは昔から派手好きだからねー」

「おまえさんも、少しはハイカラしてみたら」

「おれには似合わないよ」

「そんなに貧乏たらしい格好をしてもらうと、私がはつかしいですからね」

「ババ。ほおかむりは暖かいよ。おまえもしてみたら」

「ああもう、おまえさんと一緒にしないでくださいよ」


(解説)
 寒い冬には綿の入った”そでなし”、手ぬぐいの”ほおかむり”、手ぬぐいの”首巻きが”定番でした。爺はセーターを編み直した毛糸のマフラーより”ほおかむり”のほうが気に入っているようです。

(参考)
 「くびんじゃく」は首のことです。体に関する出雲弁は「せごた(背中)」「さんのじ(両肩胛骨の間)」「みなんと(胸)」「ももたぶら(ふとももの柔らかい部分)」「しねこ(ひざ)」「しろく(かかと)」などがあります。


(奥野栄)

 

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