爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第六十八話 おげ(2004年2月22日掲載)

【出雲弁】

「ちとわて、のくん、なってきましたども、やっぱ、コタツが、えですがね」

「あげだがのー。ババ。ミカン、もふとつ、取ってごいた」

「も、こーで、やっつめですじね」

「そげん、くったかやー。コタツに、おーと、なんぼでも、くゎえーがのー」

「あげん、ほーらちに、食ってまったてて、とーたもんだ、あーませんがね」

「おまい、そげ、いってだどものー。こないだ、ミカン箱、開けたら、おげのはえたやなやつが、あったじ」

「あら、正月の残りでしたども、こら、買ってきたばっかですけんね。こっさくに、とーなはーなよ」

「ババ。前にも、マツタケ、大事に、とっとっちゃったが、くさらかいて、しまっちゃったじ」

「あいけ。となーで、まった、マツタケのこと、まんだ、いっちょらっしゃーかねー」

「くいもんの恨みはおじぇ、てていーけんのー」

「そげそげ。なんぞごと、あーと、じき、その話しが、でますがねー」

「ワッハッハッハ。ババ。ミカン、もふとつ、まわえんだらか」


【共通語訳】

「少しずつ暖かくなってきたけれど、やはりコタツがいいですよね」

「そうだよなー。お婆さん。ミカンをもう一つ取ってくれ」

「もう、これで八つめですよ」

「そんなに食ったかいー。コタツにいるといくらでも食べられるよなー」

「あんなに勝手放題に食ってもらっては、たまったもんじゃないですよ」

「おまえ、そういうけれどもねー。こないだ、ミカン箱を開けたらカビのはえたのがあったよ」

「あれは正月の残りでしたけれども、これは買ってきたばかりですからね。勝手に取ってはいけませんよ」

「お婆さん。前にも、マツタケを大事にしまっていたけれども腐らしてしまったよ」

「ああもう。隣でもらったマツタケのことを、まだ、言っているんですかー」

「食い物の恨みは恐ろしい、というからねー」

「そうそう。何かあると、直ぐその話しがでますよねー」

「ワッハッハッハ。お婆さん。ミカンをもう一つもらえないだろうか」


(解説)
 冬を外国で過ごす日本人はコタツにあたってミカンを食べる情景を懐かしく思い出すそうです。
 ミカン箱もほっておくと、下のほうは古くなったり押しつぶされたりしてカビが生えることがあります。ご用心を。

(参考)
 「おげ」はカビのことです。出雲地方以外に山口県の一部や岡山県の一部などで使われているそうです。「羽毛(うげ)」が語源ではないかという説もありますが定かではありません。

(奥野栄)

 

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