爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)

第七話 だらくそ(8月12日掲載)

【出雲弁】

「よんべ、大阪のあんやらちが、帰ってきとったが、どげしちょーかいの。」

「オジジ。聞いてやって、ごしなはい。盆だちーね、嫁や孫らちをちぇて、みずあべに、行ったじね。」

「なにや、こな、だらくそが。盆に、みずあべすーと、”死んだもんが、足ふっ
ぱー”てて、いーねからねの。」

「こな嫁さんも、たいげしぇたもんだじね。なんもかんも、おちん、おかさんに、さしぇちょいて、遊びにえかいたが、お客さんに来たつもりで、おらっしゃーだらかの。おかさんも、言いにくいだらけん、おちが、ふとこと、いわなえけんわ。」

「ババ。そげ、いわっしゃーな。盆・正月に、帰ってきて、ごすほどでも、えとおもわな、えけんわや。」

「なに、いっちょらっしゃら。おまえさんは、ほんがほんが、しちょらっしゃー、
だけん、三度三度の世話が、どらほどに、けわしもんか、わかーしみょがね。」

 

【共通語訳】

「夕べ、大阪の子たちが帰ってきていたが、どうしているのだろうか。」

「お爺さん。聞いてください。盆だというのに、嫁や孫たちを連れて海水浴に行ったよ。」

「なんと、あのばか者が。盆に海水浴をすると、”死んだ人が足を引っ張る”というのになー。」

「あの嫁さんも、とんでもない人だよ。何もかも、わが家のお母さんにさせておいて、遊びに行きたけれども、お客さんのつもりでいるのだろうか。お母さんも言いにくいだろうから、私が一言いわなければならないよ。」

「お婆さん。そんなにいうなよ。盆・正月に帰ってきてくれるだけで良いと思わなければならないよ。」

「何言ってるの。おまえさんは、ぼんやりとしているから、三度三度の食事の世話がいかに忙しいか分からないでしょうが。」

 

(注釈)
 長男の嫁にとって家族や親せきが集まる盆や正月は大忙しです。ご主人の兄弟でも、お客さん気分で帰省されてはたまりません。

(参考)
 「だらくそ」はばか者という意味ですが、その程度によって「だら」、「だらず」、「だらくそ」、「どんだら」となります。「どんだら」は、どうしようもない「ばか者」です。

(奥野栄)

 

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