爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第七十話 ごしなはい(2004年3月28日掲載)

【出雲弁】

「おじじ。風呂に、水えてごしなはいね」

「おんおん」

「畑で、ゴンボ、取って来ますけん、コンロ、みちょって、ごしなはいよ」

「おんおん」

「クドも、みちょって、ごしなはいね」

「おん、おん。分かっちょーが」

・・・・・

「オジジ。オジジ。なんだい、くぎれーやな、臭いがしますがねー」

「なんかいの。おらは、水くみで、えそがしけんの」

「あいけ、ダイコが、くぎれーちょーますがね。そこ、ハガマが吹きこぼれちょーますがね」

「そげん、あーもせ、こーもせ、言ったてて、なーせんわや」

「おまえさん。『おんおん、分かっちょーが』てていわいましたがね」

「だてて、そげ、いわな、おまえ、怒ってだもんだ」


【共通語訳】

「お爺さん。風呂に水を入れてくださいね」

「はいはい」

「畑でゴボウを取って来ますから、コンロを見ていてくださいね」

「はいはい」

「カマドも見ておいてくださいね」

「はいはい。分かっているよ」

・・・・・

「お爺さん。お爺さん。なんだか焦げるような臭いがしますよー」

「何なのかい。おれは水くみで忙しいからね」

「ああもう、ダイコンが焦げていますよ。ハガマが吹きこぼれていますよ」

「そんなに、あれもしろ、これもしろと言ったって出来ないよ」

「おまえさん。『はいはい、分かっているよ』と言っていましたよ」

「だって、そう言わなければ、おまえが怒るから」


(解説)
 一度にたくさんの用事を頼まれても身は一つです。お婆さんに逆らえなかったお爺さんは、結局怒られてしまいました。

(参考)
 「ごしなはい」は「ごし」と「なはい」に分けることができます。「ごせ」は「くれ」という意味で浜田以東の島根県と鳥取県で使われています。「なはい」は「なさい」の敬語で江戸時代にも使われていたようです。

(奥野栄)

 

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