爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第七十一話 とわじ(2004年4月11日掲載)

【出雲弁】

・・・爺と婆は斐川町のチュウリップ祭りにやってきました。

「オジジ。見事なチィーリップ畑ですがねー」

「おんおん、ほんとだのー。なんだい、店屋もでちょーじ」

「えろんげな色があーもんですねー」

「ビールもあーじ」

「とわじばっか、言っちょらんこに、あっち行ってみましょや」

「ババ。そこ、足元、気ちけて歩かっしゃいよ」

「あらら。苗、ふんとこでしたわ」

・・・・・

「こんだ、こっち、行ってみらこい」

・・・・・

「えー臭いがしますねー」

「ほんね、え、臭いだったがのー。泡のでーもんが欲しんなーやながのー」

「ヒヤシンスと泡のでーもんと、なんぞ関係があーますかいね」

「なにや。イカ焼きの臭いだねかや」


【共通語訳】

「お爺さん。見事なチューリップ畑ですねー」

「はいはい、本当だねー。何だか、お店も出ているよ」

「いろいろな色があるんですねー」

「ビールもあるよ」

「くだらないことばかり言わずに、あっちへ行ってみましょうよ」

「お婆さん。足元に気を付けて歩きなさいよ」

「あれまあ。苗を踏むところでしたよ」

・・・・・

「こんどは、こっちへ行ってみようよ」

・・・・・

「良い臭いがしますねー」

「本当に良い臭いだったよなー。ビールが欲しくなりそうだよねー」

「ヒヤシンスとビールと、何か関係がありますか」

「何だって。イカ焼きの臭いじゃないのかい」


(解説)
 4月中旬になると、斐川町や伯太町の田んぼに赤や黄色のチューリップがじゅうたんのように敷き詰められて大勢の人でにぎわいます。

(参考)
 「とわじ」は「ばかげたこと」とか「くだらない話」という意味です。鎌倉時代の日記「不問語(とわずがたり)」から派生した出雲弁かもしれません。

(奥野栄)

 

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