爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第七十二話 ととろかん(2004年4月15日掲載)

【出雲弁】

「康夫が、あさまとーから、出かけましたねー」

「『たんなか起こす』てて、いっちょったじ」

「えらい、手回しがえですねー」

「よんべ、勤めから帰って、トラクターに油さいちょったじ」

「めじらしことね、しらふで、帰ったみたいですね。雨が、降らな、えだども」

「ババ。こなも、しゃねえて、たんなか、やー気になっただらかのー」

「待ってごしなはいよ。そげいわ、連休は、家内じれで、どこだい、えくやなこと、言っちょーましたじね」

「なにや。連休に、遊ばかともってかやー」

「おかさんが『子どもちぇて、どこぞ、えかや』てて言っちょーましたけんねー」

「おらやちが、なんぼ『はや、たんなか起こさな、えけんじ』言ったてて、ちーとだい、ととろかんにのー」

「わけこら、そげしたもんですわね」

爺「おちんわけもんは、遊んことしか、あたまん中に、ねだらかのー」

「オジジ。康夫も、たんなか、さなえけんともって、あさまとーから、世話やいちょーますけんね。えらんこと、いーだ、ねじね」


【共通語訳】

「康夫が朝早くから出かけましたねー」

「『田を起こす』と言っていたよ」

「随分、手回しがいいですねー」

「夕べ勤めから帰って、トラクターに油を差していたよ」

「珍しいことに、しらふで帰ったようですね。雨が降らなければいいけれども」

「お婆さん。あいつも性根を入れて田んぼをやる気になっただろうかねー」

「待ってくださいよ。そういえば、連休は家族連れでどこだか行くようなことを言っていましたよ」

「何だって。連休に遊ぼうと思って田起こしをしたのかい」

「お母さんが『子どもを連れてどこか行こうよ』と言っていましたからねー」

「私たちがいくら『早く田起こししなければいけないぞ』と言ったって少しも言うことを聞かないのになー」

「若いころは、そうしたものですよ」

「我が家の若い者は遊ぶことしか頭の中にないのだろうかねー」

「お爺さん。康夫も米作りをしなければいけないと思って朝早くから仕事をしていますからね。いらないことを言わないでくださいよ」


(解説)
 世帯を持つとお嫁さんや子ども達が優先です。しかし、遊ぶために前もって田起こしをしている息子は農家の跡取りだということを決して忘れていません。

(参考)
 「ととろかん」は「言うことを聞かない」とか「とりあわない」という意味です。「ととろく」という言い方もありますが、多くの場合「ととろかん」と否定して使います。

(奥野栄)

 

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