爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第七十三話 ねき(2004年5月9日掲載)

【出雲弁】

「弟さんがとこのわけしは、タバコ、すっちょらいましたかいね」

「あげだがー。しりから煙がでーほど、すってだがー」

「せんど、なま、雨がふーに、わけしが、庭でタバコすっちょらいて、『どげ、さいたましたかね』てて聞いたら、『えのちん、なかで、タバコすーだね、てて、嫁さんに、しからいた』てて言っちょらいましたわ」

「タバコは、すっちょーもんばっかだなて、がわのもんまで、害があーげなけんのー。ほせ子がおーね、あたーまいだわや」

「えまごら、タバコ、吸ったらえけんとこと、えとこが、別々になっちょって、よございしがねー」

「あげあげ。おらも、タバコ止めてから、まんだ、5年しかたっちょらんだども、吸っちょらいねきに行くちーと、けんたてえけんけんのー」

「ほーん。そげんなーましかいね。おまえさんが、タバコやめらいたときゃ、どーせ、三日ぼーじだわ、ててもっちょーましたにね。オジジ。見直しましたじね」

「ババ。あげん、ほめーだねがや。はちかしがや」


【共通語訳】

「弟さんのところの若い人はタバコを吸っていましたか」

「そうなんだよ。しりから煙が出るほど吸っているよ」

「先日、雨が降っているのに、若い人が庭でタバコを吸っているので、『どうしましたか』と聞いたら、『”家の中でタバコを吸わないで”とお嫁さんにしかられた』と言っていましたよ」

「タバコは吸っている者ばかりじゃなくて側にいる者まで害があるそうだからねー。小さい子がいるのに常識だよ」

「今はタバコを吸ってはいけない所と、良い所が別になっていていいですよねー」

「そうそう。おれも、タバコをやめてから、まだ5年しかたっていないけれども、吸っているそばに行くと煙たくていけないよ」

「ふうん。そんなにたちましたか。おまえさんがタバコをやめたときは、どうせ三日坊主だと思っていましたのに。お爺さん。見直しましたよ」

「お婆さん。そんなに褒めないでくれ。恥ずかしいよ」


(解説)
 喫煙者が吸う煙(主流煙)だけでなく、タバコの先から出る煙(副流煙)もニコチンやタールなど多くの有害物質を含んでおり、タバコを吸わない人でも、この副流煙を吸うことによって健康にさまざまな影響がでるそうです。 
 昨年の5月に健康増進法が施行され、多数の人が利用する施設では分煙に努めるよう義務づけられました。その後、いろいろな施設で分煙化が進んでいるようです。

(参考)
 「ねき」は「 きわ」とか「そば」という意味で西日本を中心に各地で使われています。語源としては「根際(ネキハ)」説、「根岸(ネキシ)」説があるようです。

(奥野栄)

 

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