爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第七十五話 ももしー(2004年6月13日掲載

【出雲弁】

「オジジ。拓也が、ひざばーじ、しーはいで、もどーましたけん、なんぞ、採ってきてごしなはい」

「どげぞしたかや」

「自転車の、けいこしちょったら、まくれた、げねすわ」

「さ、えけだったのー。ヨモギでも、なんでも、えかいのー」

「なんでも、えですけん、はやこと、採ってきてごしなはい」

・・・・・

「ババ。採ってきたじ。えんま、ももしって、ごすけんの」

「やきちゃ。さ、ドクダミですがね」

「たなへじのねきに、えっぱい生えちょったわ。こーが、よー効くだけん」

「だらじばっか、いーなはーな。しゃん、くせもん、拓也が、やがーますがね」

「そげかやー。ほんな、ほかのもん、さがいてこらかのー」

「ちゃんと、手、洗って、ごしなはいよ。くしぇやつが、うつーますけんね」

「おんおん。わかっちょーが。だども、くしぇやちが、なかなか、落ちらんがー」

「あいけ、ほんね。やっぱ、おちが、えかなえけませんかいね」

「(小声で)だいじょから、わで、えか、よからねのー」

「オジジ。なんぞ、いわいましたかいね」

「えんや、なんだいだ、あーせんが。ババ。空耳だねかや。」


【共通語訳】

「お爺さん。拓也がひざ頭を擦りむいて帰りましたので、何か(薬草を)採ってきてください」

「どうかしたかい」

「自転車のけいこをしていたら転んだそうですよ」

「それは、いけなかったねー。ヨモギでも何でもいいかい」

「何でもいいですから早く採ってきてください」

・・・・・

「お婆さん。採ってきたよ。今もみほぐしてあげるからね」

「やだー。それはドクダミですよ」

「台所の排水溝のそばにたくさん生えていたよ。これが、よく効くんだから」

「ばかばかり言うんじゃないですよ。そんなに臭いもの、拓也が嫌がりますよ」

「そうかい。それじゃ、ほかの物を探してこようかねー」

「しっかりと手を洗ってくださいよ。臭いのが移りますからね」

「はいはい。分かっているよ。だけれども、臭いのがなかなか落ちないよー」

「ああもう、本当に。やはり、私が行かなくてはいけないでしょうかね」

「(小声で)初めから自分で行けばいいだろうに」

「お爺さん。何か言われましたか」

「いいや、何でもないよ。お婆さん。空耳じゃないかい。」


(解説)
 昔はヨモギをももしって止血剤として用いました。梅雨に花を付けるドクダミも十薬(じゅうやく)と呼ばれ、切傷、はれもの、虫さされなどに使われていました。

(参考)
 「ももしー」は「もむ」「もみ合わせる」という意味で、両手の間に物を挟んで互いにこすり合わせる動作です。「しんぶんがみ(新聞紙)を、ももしって、はなしんがみ(鼻紙)にする」というように使います。「もみこする」が「ももしー」になったのかもしれません。

(奥野栄)

 

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