爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第七十六話 せわやく(2004年6月27日掲載)
【出雲弁】
爺「ババ。タバコさこい」
婆「まんだ、ちと、はえやなども、いっぷくしましょかねー」
爺「きょうの、はしまは、なんかや」
婆「コジクの煮しめですじね」
爺「さ、ごっつおだのー。えちんなかいに煮てや」
婆「よんべ、隣に行きちょらいまに、煮ましたわね」
爺「同窓会の、世話やき、さなえけんでのー。け、話がながなったがー」
婆「えらい、ご機嫌さんで帰らいましたじねー」
爺「まんだ、よんべけがの残っちょってのー。えたして、えけんがー」
婆「そげだらがね。田車(たぐるま)の後ね、草がえっぱい残っちょーますけんね。ザッ、ザッ、と力えておいてごしなはいよ」
爺「しゃんこと、言ったてて、押すほどで精一杯だがやー」
婆「おちの、仕事が、なんぼでも増えて、えけませんがね」
爺「おんおん、わかっちょーが。おまえの声聞くと、よけごと、えたしん、なーやなわ」
婆「あいけ、そらほどに、口がたつやなら、世話ねけん、しゃんしゃん、世話やいてごしないはいよ」
爺「ババ。お茶ごいてだねか。のどが渇いてえけんがー」
【共通語訳】
爺「お婆さん。休憩しようよ」
婆「まだ、少し早いようだけれども休憩しましょうかねー」
爺「きょうの間食は何かい」
婆「コジクの煮しめですよ」
爺「それは、ごちそうだねー。いつの間に煮たのかい」
婆「夕べ、(お爺さんが)隣に行きている間に煮ましたよ」
爺「同窓会の幹事をしなければならなくてねー。つい、話が長くなったよー」
婆「随分、ご機嫌さまで帰られましたねー」
爺「まだ、夕べの酒が残っていてねー。(体が)つらくていけないよー」
婆「そうでしょうよ。田車の後に草がたくさん残っていますよ。ザッ、ザッ、と力を
入れて押してくださいよ」
爺「そんなこと言ったって押すだけで精一杯だよー」
婆「私の(残った草取り)仕事がいくらでも増えていけませんよ」
爺「はいはい、分かっているよ。おまえの声を聞くとよけいに苦しくなりそうだよ」
婆「ああもう、それほど口がたつようなら大丈夫ですから、しっかりと仕事をしてくださいよ」
爺「お婆さん。お茶をくれないか。のどが渇いていけないよー」
(解説)
除草剤が無かったころは田車(たぐるま)を押して歩き雑草を取り除いていました。有機農法を行っている農家では今でも使うことがあるそうです。なかなかの重労働で二日酔いのお爺さんにはきつい仕事のようですが、取り残した雑草を手作業で取るお婆さんはたまったものじゃありません。
(参考)
「コジク」はモウソウチクなどより遅い時期に生える小さい竹のタケノコです。
出雲弁の「世話(を)やく」は人のめんどうをみるでのはなく「仕事をする」とい
う意味で使います。「世話」の付く言葉には「世話ね(だいじょうぶ)」や「世話や
き(幹事)」などもあります。
(奥野栄)