爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第七十七話 じーわ(2004年7月11日掲載)
【出雲弁】
爺「オババ。早こと、晩飯ねさこい」
婆「あらら。ハイラズの戸が、開いちょーますがね」
爺「ナシビの早もみ、ちと、しいかったじ」
婆「さ、よんべのだけん、捨てらかと、もっちょーましたね、くいなはったかね」
爺「あいけ、しゃんもん、ハイラズ、えちょくだねがや。腹くだーしたら、どげすーだかや」
婆「おまえさんの腹は、せわあーませんわね」
爺「おらの腹は、タマヤだねけんの」
婆「オジジ。ダラジマメの煮たが、えらい減っちょーますじね」
爺「ちょっこ、つまんだども、まかったじ」
婆「ちょっこだ、あーしませんがね。あらら、キーリとカンランの浅漬けも減っちょーますがね」
爺「晩飯がおせだけん、腹がなえて、えけんわや」
婆「そげん、じーわすーと、晩飯が、はーしませんじね」
爺「しゃんこたどげでもえけん、早こと晩飯さこい。も、7時だがや」
婆「あらら。まんだ、6時かともっちょーましたわ」
【共通語訳】
爺「おばあさん。早く、夕ご飯にしようよ」
婆「あらまあ。ハイラズの戸が開いていますよ」
爺「ナスビの早もみが少し酸っぱかったよ」
婆「それは夕べのだから捨てようかと思っていたのに食べたのですか」
爺「あああもう、そんなものハイラズに入れておくなよ。下痢したら、どうするんだよ」
婆「おまえさんの腹は大丈夫ですよ」
爺「おれの腹は生ゴミの捨て場じゃないからね」
婆「おじいさん。インゲンマメの煮しめが随分と減っていますよ」
爺「少しつまみ食いしたけれど、おいしかったよ」
婆「少しじゃないですよ。あらまあ、キューリとキャベツの浅漬けも減っていますよ」
爺「夕ご飯が遅いから腹が減っていけないよ」
婆「そんなに、つまみ食いをすると夕ご飯が食べられなくなりますよ」
爺「そんなことどうでもいいから、早く夕ご飯にしようよ。もう、7時だよ」
婆「あらまあ。まだ、6時かと思っていましたよ」
(解説)
太陽の沈むのが遅く、夕方の時間が分からなくなることがありますが、お爺さんの腹時計は正確のようです。
(参考)
「じーわ」は”つまみ食い”という意味で「ずいわる(随悪)」が訛ったものです。「ずいぼ」や「ずいぼたら」は”食いしん坊”という意味で使います。
ハイラズはハエが入らないように細かい網を張った風通しの良い食品保存箱ですが、冷蔵庫の普及とともに姿が消えていきました。
(奥野栄)