爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第七十八話 おしこみ(2004年7月25日掲載)

【出雲弁】

「奈緒美が祭りから戻ったみたいだのー」

「オジジ。見てごしなはい。かわいげな金魚、持ってかえーましたじね」

「どこどこ。デメキンとフナキンだねか」

「ナイロンぼくろでは、かわいそだけん、金魚鉢に、えてやーましょや」

「おんおん、そげだのー。金魚鉢、どこ、しまっただらかのー」

「おまえさんが、しまわいましたじね」

「さ、分かっちょーだども、しまったとこが思いだせんわや」

「しゃんしゃんしてごしなはいよ」

「オババ。そげいってだどものー。きんにょのことが分からんに、去年のことやなんか分かーせんわや」

「財布が見えんてて、いちなんどき、さんごしちょらいますがね。置き場所、決めちょくですわね」

「おまえに、見つからんやに、苦労しちょーとこだわや」

「こないだ、おしこみの、布団の下に、あーましたじね」

「あいけ、見つかってしまったかやー。まてよ、金魚鉢、おしこみの奥にしまったやな気がすーわ」


【共通語訳】

「奈緒美が祭りから帰ったみたいだねー」

「おじいさん。見てくださいよ。かわいらしい金魚を持って帰りましたよ」

「どこどこ。デメキンとフナキンじゃないか」

「ナイロン袋ではかわいそうだから金魚鉢に入れてやりましょうかね」

「はいはい、そうだねー。金魚鉢をどこへしまっただろうかねー」

「おまえさんがしまいましたよ」

「それは分かっているけれども、しまい場所が思いだせないんだよ」

「しっかりしてくださいよ」

「おばあさん。そういうけれどもねー。きのうのことが分からないのに、去年のことなんか分からないよ」

「財布が見えないといって、いつも探していますよね。置き場所を決めておいたらいいのに」

「おまえに見つからないように苦労しているところだよ」

「先日、押し入れの布団の下にありましたよ」

「ああもう、見つかってしまったのかい。まてよ、金魚鉢を押し入れの奥にしまったような気がするよ」


(解説)

 夏祭りの金魚すくい。ひもの付いたナイロン袋にデメキンやフナキンを入れて持ち帰りました。金魚をすくう道具はプラスチックに、金魚鉢は水槽に代わりました。

(参考)
 「おしこみは」は”押し入れ”のことで岩手県、愛知県、愛媛県、大分県など全国各地で方言として使われています。単に「こみ」ともいいますが、出雲地方のほかに広島県豊田郡で使われているそうです。

 

(奥野栄)

 

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