爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)

第八話 ほーけまつ(8月26日掲載)

【出雲弁】

「おい。ババ。てのごい、だいて、ごいた。」

「あい、け。ねじんが、どぶね、落ちたやな格好して、どげさっしゃった。」

「”むらさ”に、あーわ。ダンプに、とばしー掛けらいわ。おじぇめに遭ったわ
や。ダンプの、あんやも、そろっと、走ってごしゃ、えだども、け、ビービいわせ
ちょーだけん。」

「ほいしょ。ま、そげん、腹たてんこね、顔でも拭いてごしなはい。」

「・・・・・」

「あ、きちゃ。ババ。こら、雑巾だがや。なんだい、カビくしぇじ。」

「こらまたなんだら。おちゃ、ほーけまつだだけん、えらい、ちょちょくさ、し
ちょったわ。」


【共通語訳】

「おい。お婆さん。手ぬぐいをだしてくれ。」

「あら、まあ。ネズミがどぶに落ちたような格好をして、どうしたんですか。」

「とおり雨に遭うわ、ダンプカーに跳ねを掛けられるわ、ひどい目に遭ったよ。ダンプカーの運転手も、ゆっくり走ってくれればよいけれど、もう、勢いが良いから。」

「はい、よ。まあ、そんなに腹を立てずに、顔を拭いてください。」

「・・・・・」

「あ、汚い。おばあさん。これは雑巾だよ。なんだか、カビくさいよ。」

「これは、どうしたことだろうか。私はまぬけだから、たいへんな手違いをしていたよ。」


(注釈)
 昔の道路は舗装がされておらず、だぼれ(大きな水たまり)がたくさんありまし
た。ダンプカーもゆっくりと走っていましたので、とばしー(跳ね)が掛かりそうな
ときは予想ができました。

(参考)
 「ほーけまつ(まぬけ)」以外の「〜まつ」がつく言葉として、「ひょうげまつ
(ひょうきん者)」、「どうぐまつ(器用な人)」、「でごせまつ(でしゃばり者)」等があります。「〜まつ」は「〜者」という意味で、どことなく憎めない感じの、「軽い人」に用います。

(奥野栄)

 

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