爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第八十一話 だいじょ(2004年9月12日掲載)

【出雲弁】

「くらんなったね、康夫は、まんだ、世話やいちょーのー」

「飯米を、はで干しさなえけんてて言っちょーましたけんね」

「おかさんも一緒かや」

「そげみたいですじね」

「おらやちも、わけこら、おそまでやったもんだがのー」

「あげあげ、月明かりを頼りに、やーましょったがね」

「刈った稲をネコグーマで運んでのー」

「おちが下から投げーと、おまえさんが上で取ってねー。息がピッタシあっちょーましたがね」

「だいじょごら、おまえも、はでばの上まで届かでのー」

「しゃんこと、言ったてて、おちゃ町屋の生まれですけんね。仕方あーませんわね」

「おちんおかさんは、まいことやってだじ」

「おっきゃん、なーくじしちょってだだけんね」

「ほんね、よー世話やいてだがのー」

「おちだてて、わけこら、えっと世話やきましたじね」

「ババ。なんだい、機嫌がわりやなが、どげぞ、したかや」


【共通語訳】

「暗くなったのに、康夫はまだ仕事をしているねー」

「自家消費の米を稲掛けすると言っていましたよ」

「お母さん(康夫の嫁)も一緒かい」

「そのようですよ」

「私たちも若いころは遅くまでしたものだよなー」

「そうそう、月明かりを頼りに農作業をやりましたよね」

「刈った稲を一輪車で運んでねー」

「私が下から投げると、おまえさんが上で取ってねー。息がピッタシ合っていましたよね」

「最初は、おまえも稲掛けの上まで届かなくてねー」

「そんなこと言ったって、私は町屋の生まれですからね。仕方ないですよ」

「お母さん(康夫の嫁)は上手にやるよ」

「大きな体つきをしているからね」

「ほんとうに、よく仕事するよなー」

「私だって若いころは随分仕事をしましたよ」

「お婆さん。何だか機嫌が悪いようだけれども、どうかしたのかい」


(解説)
 稲刈りは稲掛けまでが一連の作業で、月明かりのもと、一家総出で農作業が続きました。
 お爺さんが長男(康夫)の嫁だけを褒めるものだから、お婆さんは感情を害したようです。クワバラ、クワバラ。

(参考)
 「だいじょ(大序)」は義太夫節で時代浄瑠璃の第一段の最初の部分や歌舞伎「仮名手本忠臣蔵」の第一段「鶴ヶ岡の段」の部分です。転じて最初という意味になり出雲地方で使用されています。私たちは何気なく使っていますが文化の薫り高い言葉です。
 飯米(はんまい)は自家消費用の米、「なーくじ」は「なり(体つき)」です。

(奥野栄)

 

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