爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第八十二話 ほがみ(2004年9月26日掲載)
【出雲弁】
爺「サンマは、こげやって、しちりんで焼いたが、えっちまいがのー」
婆「宣伝カーがあるいちょーますが、なんですだらかねー」
爺「秋の交通安全週間だげなじ」
婆「むかしゃ、ダイハチやリヤカーだったね、えまごらダンプがでれんでれんいっちょーますだけんね」
爺「ババ。となーのわけしは、ほがみ運転して車ぶつけちゃったげなじ」
婆「あらら。どげな具合ですかいね」
爺「あいまちは無かったみたいだども、車がえけんやんなったげなわ」
婆「なんで、また、しゃんこと」
爺「携帯電話が鳴って、出らかと思ってほがみしたら、け、前の車にコッチンコしたげなわ」
婆「あいら。そーでも、あいまちがなて、なんよーでしたね」
爺「『ほがみ運転事故のもと』てて、よー言ったもんだがの」
婆「オジジ。サンマがくぎれちょーますじね。ほがみさんこに、しゃんしゃんみちょってごしなはいよ」
【共通語訳】
爺「サンマはこうしてしちりんの火で焼いたのが一番おいしいよなー」
婆「宣伝カーが走っているけど何でしょうかねー」
爺「秋の交通安全週間だそうだよ」
婆「昔は大八車(だいはちぐるま)やリヤカーだったのに、今ごろはダンプカーが大きな音をたてて走っていますからね」
爺「お婆さん。隣の若い人は脇見運転して車に追突したそうだよ」
婆「あらまあ。どんな様子でしょうか」
爺「けがは無かったようだけれども車が駄目になったそうだよ」
婆「どうして、また、そんなことを」
爺「携帯電話が鳴ったので出ようかと思い脇見したら、つい、前の車に突き当たったそうだよ」
婆「あらあら。それでもけがが無くてなによりでしたね」
爺「『脇見運転事故のもと』とは良く言ったものだよね」
婆「お爺さん。サンマが焦げていますよ。脇見せずにしっかり見ていてくださいよ」
(解説)
秋の交通安全週間が始まります。”となーのわけし”は携帯電話に気を取られ追突事故だったようです。運転中の携帯電話の使用は非常に危険です。
(参考)
「ほがみ」は脇見のことで外見(ほかみ)が変化したものです。出雲地方を中心に使われており鳥取県では「ほかみ」「ほかめ」と言うことが多いそうです。
(奥野栄)