爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第八十四話 あばかん(2004年10月24日掲載)
【出雲弁】
婆「オジジ。あすこにノメタケがあーますじ」
爺「こらまたなんだら。えっぱいごと生えちょーのー」
婆「さき、上がって、手、ふっぱってごしなはいね」
爺「おんおん。どっこいしょ」
・・・・・・
婆「どっこいしょ」
・・・・・・
婆「あらら、あぎゃんとこね、あばかんほどあーますがね」
爺「ババ。あんま、遠くに、いかっしゃーなよ」
婆「はいはい。わかっちょーますわね」
爺「きょねんも、声がせんやんなったともったら、えらい遠くに行っちょっちゃったがのー」
婆「なんぼでもあーますだけん、もったいなてえけませんがね」
爺「山ん中はじき日がくれーけんのー。おらに、ついて歩かなえけんじ」
婆「おまえさんに、ついて歩いちょったてて、ふとつだい、採れしませんがね。おちのほうが、よー見つけますじね」
【共通語訳】
婆「お爺さん。あそこにナメタケがありますよ」
爺「こらまたどうしたことだろう。たくさん生えているねー」
婆「先に上がって、手を引っ張ってくださいね」
爺「はいはい。どっこいしょ」
・・・・・・
婆「どっこいしょ」
・・・・・・
婆「あらまあ、あんなところに、たくさんありますよ」
爺「お婆さん。あんまり遠くに行くんじゃないよ」
婆「はいはい。わかっていますよ」
爺「きょねんも、声がしないようになったと思ったら、随分と遠くに行っていたよなー」
婆「いくらでも有るから、もったいなくていけませんよ」
爺「山の中はすぐ日が暮れるくれるからねー。おれに付いて歩かなくてはいけないよ」
婆「おまえさんに付いて歩いていたって、ひとつも採れませんよ。私のほうが、よく見つけますよ」
(解説)
10月下旬にもなると、見る見るうちに日が沈んでしまいます。山の中では特に早く、夕暮れのキノコ狩りは注意が必要です。
(参考)
「あばかん」は「処理できない」という意味から「非常に多い」「たくさん」という意味に転化したものです。「あばきがつかん(処理に困る)」「あばきがとれん(処理できない)」「あばえたもんだね(たまったものではない)」などの言い方があります。
(奥野栄)