爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第八十五話 じんど(2004年11月14日掲載)

【出雲弁】

「ババ。戻ったじー。今夜は、くたべたわー」

「えらい、おそまで寄りがあーましたね」

「だいきっつあんがとこは、わけもんが出て来てのー」

「あらら、川んこのおじじは、どげさいましたかね」

「秋口から腰がえたて医者はんに、かかっちょっちゃったども、じんど、えことないげなわ」

「そら、わりしこでしたねー」

「そこんわけもんが、ことわけ、わからんに、『じげ内の祝い事や見舞いは、お互いさんだけん、お返しはやめましょや』てて言いだいてのー」

「ほーん、そーでね」

「やめーまでせんでも、よからともーねのー。にょばしらちが『そげそげ』てて言ってだだけんのー」

「オジジ。川んこのわけしの、いわいとおりですわね。えことですがね」

「だども、祝い返しは気持ちのもんだけんのー」

「世間すーのは、おちやちですけんね」


【共通語訳】

「お婆さん。帰ったよー。今夜は疲れたよー」

「随分、遅くまで寄り合いがありましたね」

「大吉さんのところは若い人が出て来てねー」

「あらまあ、川の向こうのお爺さんはどうされました」

「秋口から腰が痛くてお医者さんに診てもらっておられるけれども、あまり良くないそうだよ」

「それは、調子が悪かったですねー」

「そこの若い人が、ことのわけも分からないのに『村落内の祝い事や見舞いは、お互いさまだからお返しはやめましょうよ』と言いだしてねー」

「ふうん、それで」

「やめなくてもいいだろうと思うのになー。女性たちが『そうよ、そうよ』と言うものだからねー」

「お爺さん。川の向こうの若い人の言うとおりですよ。いいことですよ」

「そうだけれども、お祝い返しは気持ちのものだからねー」

「世間の付き合いするのは私たちですからね」


(解説)
 出雲地方は世間付き合いが派手だといわれています。なるべく簡素にしようとする若者やお婆さんたちに軍配です。

(参考)
 「じんど」は「一番・最も」という意味のときは単独で用いますが、「あまり・たいして」という意味のときは「〜えことない」などと打ち消しの語を伴います。

(奥野栄)

 

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