爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)
第八十六話 いきどわし(2004年11月28日掲載)
【出雲弁】
・・・きょうは鰐淵寺に紅葉狩りです・・・
婆「オジジ。も、ちょんぼ、ゆっくり、上がってごしなはい」
爺「どげしたかや」
婆「きょうは、ごなんけで、みなんとが、いきどわして、えけませんがね」
爺「鼻んしたは、あげんたつね、足腰は、ぼでだのー」
婆「あいけ、にくじらしげなことばっかー」
爺「やっぱ鰐(がく)さんのモミジはえがのー」
婆「あげですがねー。あら、あぎゃんとこに・・・、桜だ、あーませんかや。ちょっこ見てきてごしなはい」
・・・・・
爺「おーい、ババ。桜だわ−。えっぱいごと、花がきちょーじ−」
婆「あっらー。モミジと桜をえっぺんに。珍しもん、見せてまーましたわ」
爺「なんだい、ごどごど言っちょっちゃったねの。来て良かったらがの」
婆「なんぞ、いわいましたかいねー」
爺「なんだい、いっちょせんじ」
【共通語訳】
婆「お爺さん。もう少しゆっくり上がってください」
爺「どうしたのかい」
婆「きょうは、体の調子が悪くて胸が息苦しくていけないですよ」
爺「口はあんなにたつのに足腰はさっぱりだね」
婆「ああもう、憎らしいことばかり言って」
爺「やっぱり、鰐淵寺のモミジはいいよなー」
婆「そうですよねー。あら、あんな所に・・・、桜じゃないですか。ちょと、見てきてください」
・・・・・
爺「おーい、お婆さん。桜だよ−。たくさん、花が咲いているよ−」
婆「あらまあ。モミジと桜を一緒に。珍しいものを見せてもらいましたよ」
爺「なんだか、ぶつぶつ言っていたのになー。来てよかっただろうが」
婆「なにか、言いましたかー」
爺「なんにも、言っていないよ」
(解説)
お婆さんには都合の悪いことは聞こえないのでしょうか。それとも・・・・。
今夏は記録的な猛暑と台風16号の猛烈な風が印象的でした。桜も調子が狂ったのでしょうか。全国各地で季節はずれの開花がありました。
(参考)
「いきどわし」は息苦しいとか心臓の鼓動が激しくなるという意味です。「息労しい(いきいたわしい)」が語源のようです。
(奥野栄)