爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第八十六話 いきどわし(2004年11月28日掲載)

【出雲弁】

・・・きょうは鰐淵寺に紅葉狩りです・・・

「オジジ。も、ちょんぼ、ゆっくり、上がってごしなはい」

「どげしたかや」

「きょうは、ごなんけで、みなんとが、いきどわして、えけませんがね」

「鼻んしたは、あげんたつね、足腰は、ぼでだのー」

「あいけ、にくじらしげなことばっかー」

「やっぱ鰐(がく)さんのモミジはえがのー」

「あげですがねー。あら、あぎゃんとこに・・・、桜だ、あーませんかや。ちょっこ見てきてごしなはい」

・・・・・

「おーい、ババ。桜だわ−。えっぱいごと、花がきちょーじ−」

「あっらー。モミジと桜をえっぺんに。珍しもん、見せてまーましたわ」

「なんだい、ごどごど言っちょっちゃったねの。来て良かったらがの」

「なんぞ、いわいましたかいねー」

「なんだい、いっちょせんじ」


【共通語訳】

「お爺さん。もう少しゆっくり上がってください」

「どうしたのかい」

「きょうは、体の調子が悪くて胸が息苦しくていけないですよ」

「口はあんなにたつのに足腰はさっぱりだね」

「ああもう、憎らしいことばかり言って」

「やっぱり、鰐淵寺のモミジはいいよなー」

「そうですよねー。あら、あんな所に・・・、桜じゃないですか。ちょと、見てきてください」

・・・・・

「おーい、お婆さん。桜だよ−。たくさん、花が咲いているよ−」

「あらまあ。モミジと桜を一緒に。珍しいものを見せてもらいましたよ」

「なんだか、ぶつぶつ言っていたのになー。来てよかっただろうが」

「なにか、言いましたかー」

「なんにも、言っていないよ」


(解説)
 お婆さんには都合の悪いことは聞こえないのでしょうか。それとも・・・・。
 今夏は記録的な猛暑と台風16号の猛烈な風が印象的でした。桜も調子が狂ったのでしょうか。全国各地で季節はずれの開花がありました。

(参考)
 「いきどわし」は息苦しいとか心臓の鼓動が激しくなるという意味です。「息労しい(いきいたわしい)」が語源のようです。

(奥野栄)

 

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