爺と婆の世間話
(山陰中央新報セールスセンター発行の「りびえーる」に掲載したものです。)


第八十七話 てぼろけ(2004年12月12日掲載)

【出雲弁】

「飯食って、横んなっちょったら、よーね、おたたねしちょったわ」

「オジジ。今夜は、底冷えがしますがねー」

「そげだのー。い(湯)たんぽは、どこね、あーかいの」

「そこ、あーますがね」

「どこねや」

「座布団にくるんで」

「そげだったわ。おらが、まくらにしちょったわ」

「い(湯)が沸きましたけん、持って来てごしなはい」

「あちやち、えてごいたの」

 ・・・・・

「えっぱい、えてあーますけんね。ネルに包んで、寝床に、えちょいて、ごしなはいよ」

「おんおん、わかっちょーが・・・。あっちっち・・・・。やいな。てぼろけしたわ」 

「あらら。せわ、あーませんでしたかいね」

「も、えっぽどで、足に落ちかけたどものー、せわ、なかったが」

「あいけ。ここ、い(湯)たんぽが、へしゃげましたがね」

「なんだー。おらのこと心配しちょーだなかったかやー」


【共通語訳】

「ご飯を食べて横になっていたら、うたた寝をしていたよ」

「お爺さん。今夜は底冷えがしますよねー」

「そうだねー。湯たんぽはどこにあるかい」

「そこに、ありますよ」

「どこかい」

「座布団にくるんで」

「そうだった。私がまくらにしていたよ」

「湯が沸きましたので持って来てください」

「熱いのを入れてくれよ」

 ・・・・・

「たくさん、入れてありますからね。ネルに包んで布団の中に入れておいてくださいよ」

「はいはい、分かっているよ・・・。あっちっち・・・・。しまった。落としてしまったよ」

「あらまあ。大丈夫でしたか」

「もう少しで、足に落ちかけたけれども大丈夫だったよ」

「ああもう。ここ見てよ、湯たんぽがひずんでしまいましたよ」

「なんだー。私のことを心配しているのではなかったのかー」


(解説)便利な暖房器具が普及するまでは、就寝時の暖房具として湯たんぽが使われていました。いま思えば省エネでクリーンな暖房具です。「ネル」はフランネルの略で、紡毛糸で粗く織った、やわらかいけばを立てた織物です。

(参考)
 手から「ぼろける(落ちる)」で「てぼろけ」です。「ぼろける(ほろける)」は各地で方言として使われており、山口県や大分県の一部では「雷がほろける(ほらくる)」というそうです。
 出雲弁では「ゆ」を「い」や「え」と発音しますので「ゆたんぽ」は「いたんぽ」となります。

(奥野栄)

 

表紙ページ